Blue Note ― ブルーノート
「あー君!」
背後から、不意に服の端を引っ張られ、体が後ろへ傾く。
振り向くと、小さな女の子がこの肌寒い中、こめかみから汗を滴らせ、必死に息をしていた。 数秒後、その子が近所に住んでいる知人の一人娘である事に気がつく。
額に手を当て、必死に名前を思い出そうとした。
「シイカちゃん、だっけ?」
「あー君、あのね、公園でね、えーと……」
少女は自分でも何を言っているか、理解が出来ないみたいだ。 小さい頭を一生懸命働かせ、何かを必死に伝えようと言葉を探る。
「えとね、えーと……」
「落ち着いて、そんなに急いで話さなくても、大丈夫、ゆっくり話してくれればいいから」
少女の目線に合わせ、手を握る。「わかった?」と言うと、彼女は小さく数回頷く。 少女の息が整うのを待って、アノンは尋ねた。
「公園で、何かあったの?」
「あのね、ボールで、遊んでたの、そしたらね、ゆーちゃんが、倒れちゃったの」
「転んだって事?」
少女は頭をふる。
「お顔が真っ赤でね、ここが痛いって、倒れちゃったの」
少女は自分の胸に指を差しながら、少し早口に答える。
ひんやりとした、嫌な風が髪をゆらす。
「ゆーちゃんはどこの公園にいるの?」
「みなみ公園」
すぐ近くだった、走れば5分たらずで着く。 アノンは少女を背負うと、公園へ疾走した。