春秋恋語り
目が覚めて一番最初に目に入ったのは見慣れない天井だった。
次に見えたのは、私の部屋にはない色のカーテン。
ここは、どこ?
記憶をさかのぼること数秒……
あっ、御木本さんの部屋だった。
耳をすませたが、まだ寝ているのか御木本さんの気配はない。
どこかへ出かけたのかな? とも思ったが、私に黙って出かけるはずはないと考え直した。
起き出して洗面所に向かい、顔を洗って鏡の中の自分に問いかける。
こんなとき、どうしたらいいのかと……
黙って帰るのは失礼よね。
やっぱり、ありがとうございましたと伝えなきゃ。
彼が起きてくるまで待ってみよう。
昨夜は御木本さんの部屋に泊まったものの、二人のあいだに何事もおこらず、ソファベッドを私に提供して、彼は寝室へと消えていった。
御木本さんがタクシーの行き先を変更したときから、彼とのあいだに何か起こるだろうと期待と覚悟があったのに、何もなかったことが残念なような、でも、何もなくてホッとしたような複雑な気分だった。
とにかく、顔を見るまで待とうと決めた。
手持ち無沙汰もあり、朝食を準備しようとキッチンへ向かった。
”勝手にあけますよ” と独り言を言いながら、冷蔵庫のドアを開け食材を探す。
何ができるかなと中を見渡すと、卵と牛乳とパンを発見、砂糖まで入ってる。
浮かんだメニューはフレンチトースト。
あとは焼くだけにして準備はできたのに、御木本さんはまだ姿を見せない。
いっこうに起きてくる気配がなく、やっぱり出かけたのかと心配になり寝室のドアをそっと開けてみた。
「御木本さ~ん」 と小声で呼びかけるがまったく反応なし。
布団に包まっているのか、ベッドの上がこんもりとしている。
良かった、まだ寝てたのね。
寝顔を見てみようか……
そう思うと大胆になり、足音静かに寝室に踏み込み、ベッド脇まで寄っていった。