春秋恋語り
6 結婚したいのに……
週に1・2度、誘い合わせてランチに行く君山さんは、私と同じ歳で、去年パート勤務としてウチにやってきた。
結婚が早く、高校生と中学生の男の子がいる。
パートさんはほかにも何人かおり、ほとんどが数年勤務のベテランさんで、私にとっては正職員の若い子たちより、年齢が近い分だけ話が合うようだ。
中でも君山さんは私と趣味や関心が似ているらしく、すぐに仲良くなった。
「君山さん、昨日のドラマ見た? 歴史の設定が甘かったわね。もう少し踏み込んで欲しかったわ」
「見た見た。でも、主役を引き立てるためには仕方なかったのかも」
「カッコよく演じすぎよ。時代とはいっても、女は待つばかりじゃなかったはずなのに」
「待つっていうより男の人のプライドと見栄ね。今も昔も変わってないってことかしら」
「変わってないって?」
「男の人ってそうじゃない。自分に自信が持てないときは、絶対に危険をおかさないでしょう」
「言われてみればそうかも……」
「ふふっ。鳥居さん、身に覚えがあるみたいね」
時代ドラマの話から、私たちの話題は男性談義へと移っていた。
こんなところが彼女と話していて楽しいのだ。
えてして夫と子どもの話題になりがちなパートさんたちの中で、君山さんはそんなことはなく、家庭の話が出ないこともないけれど、ほとんど話題にしない。
彼女いわく 「家族の話って発展性のない話が多いのよね。私は自分が関心のある話をしたほうが楽しいと思うわ」 ということだった。
「身に覚えっていうか、こっちはそのつもりなのに、向こうはそうじゃないっていうか……」
「そうそう、私も思う。男って自分のテリトリーは我が物顔で行動するけど、初めての場所は苦手でしょう?
どこかに遊びに行こうって言っても、下調べをしてからじゃなきゃ嫌みたい。
私は行き当たりばったりでも全然かまわないのにって、いつも思ってたわ」
「男の人って、自分が知らないことを知られたくないのかも。だからよけいに見栄を張ったりして」
「まったくよ。私たちね、遠恋してたの。学生のときに知り合って、私が卒業したら
転勤先にに来いって言われるかと思ってたんだけど、2年も待たされたのよ」
「君山さん、すぐ結婚するつもりだったの?」
「結婚はすぐじゃなくても、同棲でもいいじゃない。私はそのつもりで就活も考えてたのに。
なのに、俺の生活が安定してからいろいろ考えようって。
そんなの、一緒に暮らせばどうにでもなると思わない?
そう言いながら、あーでもない、こーでもない、仕事が大変なんだなんて電話でこぼすし、
勝手なことばっかり」
君山さんの話を聞きながら、私は御木本さんを思い出していた。
向こうに行ったら、しばらくは落ち着かないから連絡もできないとか、一年いたら様子がわかるかもね、なんてことも言っていた。
頑張ってるよと言いながら、電話の声は疲れてて、大変なんだなんて愚痴も聞こえて……
もしかして、アナタもそうなの?
アナタの心の準備ができるまで、私に待ってて欲しいのかな。
御木本さんの見えない心をさぐってみるけれど、彼の本心は見えてこない。
田代さんもそうだ。
一応 ”おつきあい” は続いているけれど、この先どうしたいのか全然わからない。
ただなんとなくお付き合いが続いても、私、困るんだけどな……
「だから私、押しかけたの。もう待てないって、彼のところへ行っちゃった。で、今に至るのよね」
「君山さんって見かけによらず大胆なんだ。追い返されたらって考えなかったの? 嫌がられるとか」
「追い返されたら、そのときはまた出直そうと思ったわ。
嫌がられたら、それは仕方ないわね。見切りをつけて他の人を見つけるだけ」
「すごい。私、そんな勇気ないなぁ」
「だって、自分で動かなきゃ待ってても春は来ないのよ。チャンスは自分でつかまなくちゃ!
って、成功したから言えるんだけどね。えへへ……」
「なんか、いまの、すごくきたかも……」
「うん? なにがきたの?」
そうよ、そうよ、自分から動かなくちゃ。
どっちの彼とどうなるんだろう……じゃない、自分がどうしたいのか……よね。
うん、そうだ、と独り言を漏らした私を、怪訝そうな君山さんの顔がじっと見ていた。