春秋恋語り
「付き合ってる男、どんなヤツ?」
「常務の紹介なの、親戚だって。歳は御木本さんと同じくらいかな」
「もう決まったんだよな」
「何が?」
「何がって、結婚するんだろう? ソイツと」
「わからない……」
「わからない?」
「自分がどうしたいのかわからないから、御木本さんに電話したの」
「そうか……で、どうするんだよ」
「うーん……」
ここにきて、やっぱり私が決めるのか。
一緒に行こう、ついて来いって言ってくれるんじゃないかと思ってたのに、その言葉は出てこないのね。
「ソイツとの話、断ってくれ」
「えっ?」
「常務に迷惑がかかるなら、一緒に謝ってやる。頭を下げるくらいなんてことない。だから……」
同じコト言ってる。
田代さんと御木本さん、似てないようで似てるのかな。
うふふ……
嬉しくて、嬉しくて、「うふふ」 と笑いがこみ上げてきた。
「何が可笑しいんだよ」
「その人にも言われたの、他の話は断ってくださいって」
「なんだ? 気に食わないなソイツ」
「うふっ、妬いてる? なんかいい気分」
「とにかく断れ。いいな」
「断ったらどうしてくれる? 私のコト……」
うどんを挟んだ箸を持ったまま、御木本さんの顔をのぞきこんだ。
あはは、困った顔をしてる。
何て言おうか迷ってる。
彼のこんな顔、見てるだけで幸せな気分になってくる。
「向こうで見つけた店があるって話しただろう。歴史好きな客ばかり集まる店だって。
一緒に行こう」
「出張のとき連れて行ってくれるって言ってた店? 行くのはいいけど……」
「そうじゃなくて、えっと……住んでるところの近くなんだ。
飲んで、しゃべって、食べて、気分がいいまま家に帰れるくらい近い。
梨香子がいたら、一緒に行って帰って……今まで一人だったけど、一緒だったらもっと楽しめるんじゃないかと思った。
いつでもいいから、待ってるよ」
なんて遠まわしな言い方なの。
でも、彼にはこれが精一杯みたい。
必死な顔をして言葉を繋いで、額に汗まで滲んでる。
「歩いて行けるっていいわね。じゃぁ、押しかけるからよろしくね。そのまま居座ってもいい?」
「いいよ。それから……名前も変えてくれたら助かる。ほら、別姓だと手続きとか面倒だろう?
同じ苗字の方がいいからさ」
「うん、わかった」
安堵の顔がニコリと笑ってから、額の汗を拭った。
翌日、私の体が回復するのを見届けて、御木本さんは帰っていった。
「アイツには断るんだぞ、いいな」 と何度も念を押したあと、待ってるから、と照れくさそうに言い残して……