春秋恋語り
3 蘇る想い
夕暮れ時の街は 昼の顔と夜の顔が見え隠れして、いつもと異なる景色を見せてくれる。
大杉の顔が昼間と違って見えるのも、窓から見える風景が夜景に変わりつつあるからだろうか。
「彼女は従姉妹で、父の姉がユキちゃんのお母さんです。
母が亡くなったあと、高校を卒業するまで、私、ユキちゃんと一緒に暮らしたので姉妹みたいなんですよ」
見合いの席では説明のなかったことを、いくつか教えてくれた。
大杉は早生まれで深雪さんは遅生まれ、歳は同じだが自分の方が学年がひとつ上でもあり、妹みたいで可愛いんですと、屈託のない笑みを見せた。
「深雪さん、大杉をずいぶん頼りにしてたね」
「おとなしくて控えめすぎるんです。でも芯はしっかりしたいい子なんですよ。
ユキちゃんの良さは、一度会っただけではわからないかもしれませんね」
「それは、僕に深雪さんにもう一度会えってこと?」
「先輩ならわかってくれるかなって、さっきそんなことを思いながら横に座ってました」
「そうかなぁ、この話はまとまらないと思うよ」
「そうですか?」
大杉に顔を覗き込まれ、おそらくね……とはっきりとしない返事をした。
「母が亡くなったあと、父の落ち込みがすごくて心配したんですけど、人って前向きになれるんですね」
「時間が薬っていうからね。お父さんも気持ちを整理されたんだろう」
「違うんです。再婚するって言い出して、母の一周忌を待って再婚したんですから」
「お父さん、再婚されたんだ」
「父の寂しさも苦しさもそばで見てきましたから、わからなくもないし、頭では理解できるんですけど。
葬式で会った母の同級生と再婚したんですよ。父もよく知っている人でした」
「お母さんのお友達と……」
「母の思い出話をするうちに、気持ちが傾いていったって。
そう言われても娘としては複雑です。いくら知り合いだったからといっても、一年くらいで気持ちが傾くのかなって。
新しい母を受け入れられなくて……わたし、ずいぶん荒れたんですよ」
上目遣いに告白した顔は茶目っ気を含んでいたが、茶化してしまいたいほど思春期の苦しみは重かったのだと語っている。
なんと返事をしようかと迷ったが、
「遅い反抗期だったんだ。大杉みたいに真面目な子は、どこかで爆発した方がいいんだよ」
「ふふっ、田代先輩って面白い」
僕の不真面目な返事に笑ってくれた
「ユキちゃん、私の気持ちを全部受け止めてくれたんです。
ちいちゃん、言いたいことがあったら私に言ってねって、そう言ってくれて。
泣きながら父に言えない本音をユキちゃんにぶつけて、わめいて、叫びちらして……
あの子は黙って聞いてくれました、気持ちが楽になりましたね」
「あぁ、なんかわかるような気がする。深雪さん、聞き上手なんだ」
僕の言葉が嬉しいのか、そうなんです、ユキちゃんいい子なんですとまた繰り返している。
どうしても従姉妹を気に入って欲しいらしい。
けれど、僕にも好みがある。
僕としては深雪さんより大杉がいいんだけどと、よっぽど言おうかと思ったが、彼女の従姉妹思いの様子に言葉を飲み込んだ。