春秋恋語り

母を失い泣き崩れる弟たちと、放心状態の父親のそばで、健気に弔問客に礼を返す大杉は大人の女性の顔で、こんなに美人だったのかと場にそぐわぬことを思ったものだ。

喪服姿の女性は美しいというが、そのときは高校の制服姿であったのに、紺一色の制服の慎ましい色が喪服の装いにも見え、僕は彼女から目を離すことができなかった。

じっと見つめ続ける僕の視線を感じたのか、ふと顔を上げて僕を見つけたときの顔は、僕の錯覚でなければ、ほんの一瞬嬉しそうに見えた。

歩み寄り、お袋と一緒に悔やみを述べ、親同士が話すあいだ僕も大杉と少しだけ話しをした。

母親は病気で余命を告げられていたことや、覚悟はあったがやはりショックだったと話してくれた。 

けれど長女の自分がしっかりしなければと、僕に語るうちに目は涙であふれていた。

慰めるために手を置いた肩の感触は、細く頼りなげなのに女性らしい丸みもあり、悲しみの中にある人に感じるには、不謹慎な感覚を覚えたものだ。

これが葬式の最中でなければ、僕と彼女の間に何かが芽生えたかもしれない。


あのとき、なぜ母親とともに葬式に行こうと思ったのか。

部活の後輩だったからとお袋には理由を付け伝えたが、本当はそれだけではなかった。

初恋より少し進んだ、けれど、誰かを好きになることを覚えたての、 もどかしい感情を彼女に対して持っていた。

それが、葬式での健気な様子や凛と佇む姿を見て、僕の不確実な感情はそのとき確実のものとなった。

忘れていた苦味を含んだ甘い感情が引き出され、気恥ずかしさに襲われ乱暴に顔を拭った。

額から鼻筋にかけてべっとりと汗がにじみ、拭った手の湿り気に我に返った。



「あっ、エアコン……忘れてた」



汗ばむ中、かなりの時間を遠い記憶に浸っていた。

すぐに作動したエアコンから強風が吹き出される。


葬式で見た高校生だが大人びた顔の大杉と、今夜の気取らない、けれど大人になった彼女の顔は、同じであるのにまったくの別人のようにも思える。

僕の中で、新しい感情が芽生えつつあった。

どちらの顔も、僕の気持ちを惹きつける何かがあった。

次に会ったらどんな話をしようか。

噴出し口に顔を向け髪をさらしながら、甘い感情も一緒に振り払うように顔を振り続けた。 




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