春秋恋語り
2 ふたたびの出会い
春は別れと出会いの季節というけれど、今年の春はまさにそうだった。
「鳥居さん、ちょっと」
常務が私に向かって手招きをしていた。
そばにいくと、今週末付き合ってもらいたいとのことで、詳しい話はなかったものの前にも同じようなことがあったから、その席がどんなものであるのか大体の見当がついた。
「私の他にもう一人くるが、気軽に顔を出してもらえないかな」
ほら、やっぱり思ったとおり。
去った人のことなんて忘れて前を向きなさいって、神様がチャンスをくれたんだわ。
御木本さん、仕事頑張ってね。
私は一足先に相手探しをしてるから。
「急に呼び出して悪かったね。どうしても今日しか都合がつかなくて」
「いいえ……」
常務の横には、見覚えのある男性が座っていた。
その人には 二年前に一度会ったことがあった。
お久しぶりですと、多少の気まずさを含んだ笑みを浮かべながら挨拶をした人に、お元気でしたかと私も言葉を返していたが、どうしてここにいるのだろうとの疑問に包まれたままだ。
今日はチャンスをつかむつもりで来たのに、予想とは異なる展開に私は戸惑っていた。
「どうしても鳥居さんに会わせて欲しいと頼まれてね。
あの時、あんな失礼をしたってのに」
「まさか転勤になるとは思わなくて。僕の方も急なことだったので、本当に申し訳ありませんでした」
常務と二人で深々と頭が下げられる。
私の中ではもう済んだことだ。
返事に困り、いいえ……とだけ言った。
二年前、私に紹介したい男性がいると常務から言われ、今日のように席が設けられた。
田代さんは常務の遠縁の男性だった。
有望な人材だと言うのは間違いないようで、誰もが知る企業の技術職であると名刺が示していた。
「仕事に没頭しすぎて、女性と知り合う暇もなかったようだ。
だが、それだけ真面目だってことだよ」
多少の仲人口はあるものの、常務の紹介に私は気持ちが弾んでいた。
田代さんと、そのときかなりの時間を二人で過ごし、彼には好感触を持った。
次の約束をしたのだから、田代さんも満更ではなかったはずだ。
ところが、二度目のデートは実現しなかった。
田代さんが急な異動で日本を離れなければならなくなったのだった。
「鳥居さんにもう一度会って謝りたくて、それで叔父にたのんだんです」
「あの……向こうのこと聞かせてもらってもいいですか。
私が知っている中東って、石油と砂漠のイメージしかなくて」
恐縮して謝ってばかりの田代さんの気持ちをほぐしたくて、私は話を他へと向けた。