春秋恋語り
車を飛ばして、街を走りぬける。
指定の駐車場に止めるのももどかしく、路上駐車違反でレッカーで持っていかれる危険を承知で路駐にし、総合病院の待合室に駆け込んだ。
一階の待合室に大杉の姿はなく、総合案内で聞くと二階にも面会のための待合室があるという。
急ぎ階段をのぼり、二階のフロアを見渡し懸命に大杉の姿を探した。
帰ったのか……
お父さんの病室かもしれない。
ナースセンターで病室を教えてもらおうと、案内にそって廊下を曲がった。
見覚えのある背中が壁にもたれかかったのを見つけたのは、ナースセンターよりさらに奥にある給湯室前だった。
迷惑にならない程度の声で名前を呼ぶと、振り向いた顔は驚きで信じられないといった表情だった。
壁にもたれかかった体を引き剥がすようにして体を立て直したが、そこから動けないのか、僕をじっと見つめたままだ。
駆け寄るように大杉の前まで行った。
「お父さんになにか」
「先輩……」
震える唇を噛み締め、感情を懸命にこらえる顔が辛そうだ。
腕を取ると、崩れるように僕の胸に倒れ込んできた。
どうしたのかと聞いても首を振り、声を押し殺すように泣きだした。
彼女の背中に手を回し体ごと抱え込んだ。
抱えなければ、いまにも腕の中から崩れ落ちそうだった。
どれほどそうしていただろうか。
顔を上げると、彼女の肩越しに一人の女性の姿が見えた。
いつからそこに立っていたのか、佇んでいるといったようにひっそりと僕らを見守っている、そんな感じだった。
「ちいちゃん、お父さんに会っていただいたら」
僕に支えられながらであったが、声のするほうに体を向け、「でも……」 と大杉の戸惑った声がした。
「お会いできますか。よろしければご挨拶をしたいのですが」
僕の言葉に 「えっ」 と小さく反応し、いいんですかと遠慮がちな彼女の声が続いた。
「義母です」
大杉が僕に紹介すると、女性は深々と頭を下げたのち、病室へと案内してくれた。
開けられた病室のドアの向こうに見えたのは、やせ細った男性の姿だった。