春秋恋語り
空港から市内へ走るリムジンバスに乗り込んだ。
窓に映る並んだ二人の顔を見るだけで嬉しくて、柄にもなく胸の奥がドクンと音を立てる。
「部屋で待ってるんだと思ってた。来てくれたんだ」
「電話をもらったとき友達と食事をしてお店を出たところで、目の前に空港行きのリムジンが止まってて」
これに乗ったら空港に行けると思ったら、そのまま乗ってしまったのだと教えてくれた顔がはにかんだ。
そして、早く会いたくて……と、小さな声で告白された。
彼女のほうから会いたかったと言われて、感動したどころじゃない、バスの中でなければ抱きしめていただろう。
抱きしめる代わりに首をかしげ、千晶の頭にコツンと自分の頭を乗せた。
彼女から 「うふっ」 と嬉しそうな声が漏れ、その声を聞いてまた感動する。
自分でもあきれるくらい、一緒にいられるのが嬉しかった。
機内で寝てしまったため食事をとり損ねたと言う僕を、深夜営業のレストランへ案内するという。
ファミレスだろうと思っていたらちゃんとしたレストランで、午前2時まで営業と店頭表示が見えた。
千晶は常連なのか 「やぁ、いらっしゃい」 と店主が気安く迎えてくれたが、あとから入ってきた僕を見ると 「おっ」 と驚いた顔をした。
席に座ると水が運ばれてきて、あらためていらっしゃいませと言いながら、「ちいちゃんの彼?」 と確認するように彼女に聞き 「はい」 とはにかんで返事をした千晶へ満面の笑みを見せたあと、なぜだか僕はその人から頭を下げられた。
「父の友人の川村さんです」
「こんばんは。川村です。ちいちゃんのお父さんとは長い付き合いです」
お父さんの友人だと紹介されたが、なんと返事をしていいものか迷ったが、先に名乗られたので 「こんばんは。田代です」 と挨拶を返した。
それよりもなによりも、千晶が僕を彼だと認める返事をしたことに感動した。
胸の奥がまた、ドクンと音を立てる。
中高生の交際じゃあるましと思うが、僕の純情は寂れていないようで、ことあるごとに感動してしまうのだ。
「昨日、お父さんのところに行って聞いたばかりだったからね。まさかこんなに早く会えるなんて」
「お見舞いに行ってくださったんですか」
「ちいちゃんが彼氏を連れてきたって、大杉のヤツ、嬉しそうだったよ。
ずっと気にしてたからね。千晶には苦労させた、自分のせいだと言って」
「父がそんなことを……」
考え込む千晶に、店主は注文も聞かず 「おススメでいいね」 とだけ言い残し店の奥へとさがっていった。
しばらくして、食欲をそそる香りとともに料理が運ばれてきて、その豪華さに僕たちは 「わぁ」 と同時に声をあげた。
「おじさん、サービス良すぎじゃないですか」
「いいの、いいの。俺の気持ちだから」
僕に向けられた嬉しそうな顔に、ありがとうございますと礼を述べると、うんうんと川村さんは満足そうにうなずきデザートまで追加してくれた。
「あっ、私、食事したんだ……」 と思い出したように苦笑いしていた千晶も、僕に付き合って食事をすることになり、ふたりでかなりの量を平らげていた。