春秋恋語り

3 思い出の人



「ウチの会社って、なんか社員の肩書きって古くないですか?」


「会社じゃないでしょう、ウチは団体よ。社員じゃなくて職員。正式には団体職員。
何度も教えたでしょう」


「えーっ、だって会社って言わなきゃ友達にカッコ悪いですよ。
それに職員っての、ほかに変えたほうがいいと思います。
ほら、よくスタッフとかって言うじゃないですか」


「スタッフって、ここはお店じゃないのよ」


「お店って……鳥居さん、ショップって言ってください」


「ショップねぇ」


「じゃぁ、参事とか主事とかじゃなくて、チーフとかマネージャーとかってどうですか」


「はぁ?」


「ボスとかってカッコいいですよね。CEOとかってのもありかも」


「ボスねぇ、外資系の会社ならあるでしょうね。 
でもね、CEOって Chief Executive Officer 最高経営責任者のことよ。
ウチには関係のない役職です」


「そうなんですか? あっ、関係あるのはCOOでしたっけ?」


「ふぅ……それも関係ない。県支部は理事長、各地方のトップは支部長、本部は連合会長よ。わかった?」



この就職難の時代にコネで入った子たちの意識ったら、どうしてこんなんだろう。 

どうにかしてくれと思うことがたびたびある。

真面目なコもいる。

実際にはきちんと仕事をこなすコの方が多いのだが、意識の低さは否めない。

ウチの団体は、欠員が出るとそのたびに補充する方法で職員を採用している。

新卒を募集することは滅多になく、ほとんどが途中採用のため、職員や役員の知り

合いを紹介されることが多く、彼らは一応試験を受けるものの面接が重要視され、

さらに彼らの背後の人物の一声が採用の有無を左右する。

いま私に 「ウチの会社って……」 といってきた彼女も、確か叔父がここの役員をしていたはずだ。

本人は都会へ行きたかったが、親が地元に仕事があるからと引き止められたのだ

と、仕方なく九州の地方都市に勤めてますと、不満そうな顔で彼女が教えてくれた。


都会にいる友人には 「ウチの会社が」 と言いたいのだろうが、ここは会社じゃありません。

地域産業を支える組合組織は、なくてはならないもの。 

少しは自分も団体の一員である自覚を持って欲しいものだわ。

毎年くり返されるやり取りは、疲れるなんてものじゃない。


電話をくれた夜から、御木本さんは思い出したように時々声を聞かせてくれる。

彼の話は仕事のことがほとんどだけど、私の方は今日みたいな出来事の愚痴ばかり。

笑って聞いてくれる人がいる、それだけで気持ちが楽になった。
 

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