春秋恋語り
7 未来へのステップ
11月初旬の連休と有給休暇を加えた休みを、まるまる千晶と過ごそうと計画していた。
かたくなな彼女の気持ちをほぐすには、何らかの刺激があったほうがいいだろうと思い立ったのだ。
カレンダーと天気の長期予報を照らし合わせ、ここぞと言う日を設定し、行き先は空気の澄んだ場所を選び、周辺の観光スポットもチェックずみだ。
昼は自然の中を散策し、夜は澄み切った夜空を眺める。
天気次第というハンディがあったが、晴天になるよう願うしかない。
とにかく晴れてくれと祈りながら、綿密に練り上げた工程表の最終チェックをする。
ここまで準備をしたんだ、必ず喜んでもらえるはずだと、千晶と過ごす時間を思い描いていると、僕の空想を邪魔するように突然携帯が鳴り出した。
発信者は小林のおばさんで、出張先にまで電話をしてくるなんて何かあったのかと身構えた。
『そっちはどお? 寒くなったでしょう』
『そうですね。そろそろコートがほしいですね』
『仕事、予定通りに終わりそう?』
『まだなんとも言えませんけど、終わらせたいですね』
『じゃぁ、12月には帰ってこられるのね』
『いまのところはその予定ですが……なにか』
言いたいことがあるはずだが、おばさんはなかなか本題に入らない。
新しい縁談でも持ち込んできたのだろうか。
それならさっさと切り出せばいいものを、言ってもわからないだろう僕の仕事の話を聞いてくる。
いい加減にイラだって、話があるんじゃないですかと僕から聞いた。
『そうなんだけど……脩平君、もう一度考えてみてくれないかな、彼女のこと』
『彼女って、もしかして深雪さんですか? まさか、まだ小野寺さん側に断ってないってことないでしょうね』
失礼な言い方だとは思いながら、おばさんの歯切れの悪い言葉に強い口調で問い返していた。
『お断りしたわよ。いったんはそうですかって納得してくださったのに、またお電話を頂いて。
もう一度考え直してもらえないだろうかって、どうしてもって引き下がってくださらないの。
脩平君が出張から戻ったら、もう一度お会いしたいって』
『困ります。僕にその気がないっての、ちゃんと言ってくれたんですか』
『言ったわよ。脩平君の気持ちが動かないようです、残念ですがご縁がなかったようですねって』
『じゃぁ、なんであきらめないんですか』
こっちの言い分を聞かないなんて、そんなの向こうの勝手じゃないですかと言うと、おばさんは口調を強め反撃に出てきた。
『だから、小野寺さんが脩平君を気に入って、どうしても深雪さんと一緒になって欲しいって、そりゃぁ熱心におっしゃるの。
あなたの人柄やきちんとしたところがすごく気に入ったんですって。いってみればね、脩平君、あなたが悪いのよ。
ハッキリした態度を見せないし、小野寺さんの前でいい顔をするんだから。気に入られても仕方がないじゃない』
『そんなこと言われても困ります。じゃぁ、ろくろく挨拶もしないでお断りしますって言えばよかったんですか?』
『そうじゃないけど……』
深雪さんのお父さんという人は思い込みの激しい人らしく、こうと決めたら突き進む。
ワンマンだが統率力がある、だからこの厳しい世情でも事業が上手く言ってるのよねと、おばさんは変なところで感心している。