春秋恋語り
「自分でもわかってるけど、僕はかなり面倒な性格だと思う。形を整えて手順を踏んで、そうでなければ前に進まない。
いったん進みはじめると目標を達成するまで粘る。何が何でも自分の思うようにしたいから押しが強い」
「ホント、柔らかく見えるのにそうじゃないんですよね」
「そうだよ。千晶は僕をよくわかってくれてる、だから君がいいんだ。
お父さんのためとかそうした方がいいとか、いろんなことを言ったけどそんなの全部言い訳で。
いや、そうじゃないな。うーん、どう言えばわかってもらえるかな。
お父さんに安心して欲しいってのはウソじゃないけど、僕が千晶と一緒にいたいんだ。将来もずっと一緒に」
そこで一息ついて息を整え、言葉に気持ちを込めた。
「僕と結婚してください」
千晶は手元に視線を落としたままじっとしている。
言葉をさがしているのか言葉に困っているのか、表情からは読み取れない。
僕の気持ちは伝わったのだろうか。
準備していたシナリオは全然役に立たなくて、思ったことの何分の一も言えなくて、けれど一番伝えたいことは言った。
「私……待って欲しいって、こだわりだって言ってたけど、そうじゃないんです。田代さんの気持ちが聞きたかったんです……」
「千晶を説得するみたいに言葉を並べて、お父さんのためなんてもっともらしい理由をつけて、そんなこと言われて嬉しくないよね。君が返事に困ったはずだ」
「試すようなことしてごめんなさい」
「謝るのは僕の方だ。誰かのためになんて遠まわしな言い方は卑怯だった」
「私だってそうです」
顔を上げ訴えるように僕に話しかける目は怖いくらいに真剣だった。
どうしたの? と千晶に聞き返す頃には、僕もだいぶ落ち着いてきた。
「ユキちゃんの付き添いでお見合いに行って、田代先輩に会って、こっそり名刺をもらって、ドキドキして……
あのとき、本人より付き添いの大杉のほうがいいって先輩が言ってくれたとき、冗談みたいに返事をしたけど本当は嬉しかったです。
それから何度も誘ってもらって、このまま先輩といられたらいいのにって思いました。でも」
「深雪さんのことがあったから……だろう?」
静かにうなずいて、また視線を手元に戻してしまった。
「ユキちゃん、あんまり自分の気持ちを口にしない子なんです。だけど、田代さんステキな人ねって言うから、てっきりユキちゃんは田代先輩のこと気に入ったんだと思って、だから私応援しようと思って。
おじさんやおばさんにも田代さんのこと宣伝するみたいに話して。だけど……
上手くいけばいいですねって口では言いながら、心では田代さん断ってくれたらいいのにって思ってました。
そんな自分が嫌だと思いながら、田代さんに二人で会おうって言われてすごく嬉しくて。
田代さんに会ってるときは、嫌なこともわずらわしいことも全部忘れられた……忘れようとしてました。
ユキちゃんやおばさんたちに対して後ろめたいのに、自分の気持ちを止められなくて……ずるいですね」
心の醜い部分をさらけ出しいたたまれなくなったのか、千晶は顔を隠すように横に背けた。
僕の曖昧な態度が彼女をこんな気持ちにさせてしまったのか。
「それに……」
「まだあるの?」
もう少し待ってくださいと言ったものの、いつか僕の気持ちが変わってしまうのではないか、他に好きな人ができて 気持ちが移ってしまうのではないかと、不安で仕方がなかったと涙声で告白があった。