春秋恋語り
「脩平がお付き合いしてるお嬢さんが、ちいちゃんだったなんて……
大杉さんってお名前を聞いても、はじめはわからなかったのよ。
小野寺さんの従姉妹のお嬢さんが付き添いで一緒にいらしたとは聞いていたけれど、まさかあなただったなんて。
お母さんとは学校の役員を一緒にしたことがあったの。気があったのね、仲良くしていただいて何度かお宅にもお邪魔したのよ。ちいちゃんって呼んでいたのは覚えてたのに。まぁ……ご縁があったのね」
お袋が昔を思い出すようにひとつひとつ語っていく。
千晶もその言葉にうなずきながら一緒に昔を思い出しているようだ。
「お父さんは? 再入院されたとうかがったけれど、ちいちゃんも大変だったわね」
「いいえ……私より義母の方が大変だったと思います。一時は父も弱気になっていましたから。
ですが今は、手術を受けて元気になるんだと言うようになって……私も弟たちもホッとしています」
「そう、よかったわね……弟さんたちはいくつになられたかしら。あの時まだ小学生だったわね」
「上の弟が今年30です。下の弟が28になりました」
「結婚は?」
「まだです。仕事が楽しいみたいです」
ひととおりの紹介と報告が終わるのを待って、彼女と結婚したいと思っていると告げた。
僕の言葉に、お袋は 「わかったわ」 と言い、親父は 「うん」 とうなずいた。
小林のおじさんとおばさんも 「そうだったの」 と言っただけで あまりの手応えのなさに拍子抜けした。
いったいあなたたちはどうなってるの!
これからどうするつもり!
……などと、両親たちから追及されるとばかり思っていたのだが、僕の予想はことごとくはずれ穏やかな雰囲気の中、普通の会話が続いている。
「男の子って仕事に夢中になると結婚は二の次、三の次になるのよね。ほら、ここにもそんな人がいるけどね。
やっとその気になったと思ったら、まったく世話の焼けること」
「すみません……」
「あら、千晶さんが謝ることじゃないのよ。ちょっと脩平君、黙ってないで何とか言いなさいよ」
「はぁ、すみません」
突然話を振られても困るじゃないか。
予測の出来ない事態に備えいかに対応するか、それだけで精一杯なのだ。
いつ追及が始まるのかと身構えている僕には、女性陣の世間話がいつまで続くのかわからず多少イラついていた。
それにくらべて千晶にさっきまでの緊張はなく、いつもと変わらぬ様子でお袋やおばさんと話しをしているのだから、僕よりよっぽど落ち着いている。