春秋恋語り
「これからどうする。小野寺さん、まだあきらめてないんだろう?」
「そうなのよ。あんな頑固な人初めてだわ」
おばさんに頼んだ断りの口上は、またしても小野寺さん側に押し切られ凍結されていた。
「こちらの事情を伝えるのは早い方がいいだろう。向こうのお父さんは、どうにでも脩平を婿さんに欲しいようだからね」
「えっ、僕は婿養子になる予定だったんですか?」
「そうじゃないけど、それに近いかもね。深雪さんにはお兄さんがいるけど早く独立してるし、今の事業は全部娘さんに譲るつもりらしいから。
だから誰でもってわけにはいかない、しっかりした婿でなきゃとおっしゃって脩平君を諦めてくださらないのよ。
あなた、断るもつもりが説得されるかもしれないわよ」
「それは大いに考えられるな。あの親父さんならやりかねん」
「困ります! 冗談じゃないですよ」
「冗談じゃないさ、何度言ってもこっちの言い分を聞いてもらえないんだからな」
私たちもほとほと困り果てていたんだと、おじさんとおばさんは顔を見合わせて口々に苦労したと言い出した。
「そんなに苦労をかけたとは、本当に申し訳ない」
親父が初めて口をはさみ、小林のおじさんに深々と頭を下げた。
このままではいけない、説得なんかされてたまるか。
小野寺さん側を納得させ、手術前のお父さんに安心してもらうため、千晶とできるだけ早く結婚したいと宣言するにはもうあれしかない。
最後の切り札を使うことを決め、僕は言い出すタイミングを計った。
「やっぱり小野寺さんには僕が直接伝えます。明日にでも会ってきます。急ぐ必要がありますから」
「うん? どうした」
「急ぐって、また出張でもあるの?」
怪訝そうな両親とおじさんたちに向かって、僕は息を吸い込んで一息に言葉にした。
「子どもができたので、ゆっくりしているわけにはいかないので」
一瞬空気が止まったが、すぐにみんなが騒ぎ出し 「本当なのか!」 と僕に詰め寄ってきた。
そんな中で千晶の驚きようは誰よりも大きく、僕を見つめる目はまん丸で、瞬きもせず息をするのも忘れたように固まっていた。