春秋恋語り


「そうなのか?」


「うん……」


「子どもができたってことにすれば、千晶さんとの結婚話を無理にでも進められると思った。大方そんなところだろう」


「うん……」
 

「まぁ、お前の気持ちがわからんでもないが、千晶さん、びっくりしてるじゃないか。
打ち合わせもなしにウソはいかんな」


「そうよ。こういうことはすぐにわかるのよ。慎重派の脩平らしくないわね。
でも、それだけちいちゃんと一緒になりたかってことでしょうけど」
 


親父やお袋にまでこういわれては、僕の立場はない。

すべてを認め 「すみませんでした」 と謝るほかなかった。

ウソはばれたが親たちに温かく許してもらえた、それはそれでありがたかった。

じゃぁ、あらためてこれからのことを決めましょうかと、おばさんの明るい声で和やかな雰囲気が戻ってきた。

千晶だけが浮かない顔をしていたが、思いがけない展開にまだ気持ちがついていかないのだと僕は思っていた。



「大杉さんのご両親にご挨拶に行く日はいつがいいでしょうね」


「手術前は避けた方がいいわね」
 

「できるだけ早い方が……」



などなど、具体的な話が始まったところに、千晶が突然声を出した。



「あの……わたし」


「どうした」


「本当なんです」


「何が? それだけじゃわからないよ」


「だから、ウソじゃなくて……」


「ちいちゃん、まさかあなた赤ちゃんがいるの? そうなのね?」



お袋の問いかけに千晶が大きうなずいて、僕は息が止まるほど驚いた。

赤ちゃんって、子どもができたって?

千晶が妊娠したってことで……えーっ!

驚きのあまり言葉を失ってしまった僕に代わってお袋が次々と問いかける。



「本当なのね? それで今どれくらいなの?」


「7週目に入ったそうです。昨日病院に行ってきました」


「ということは……予定日は、来年の8月か9月くらいってところね」


「8月の半ば頃だろうと先生はおっしゃっていました」


「体は大丈夫なの? つわり、そろそろ始まるわね」


「まだ大丈夫です。でも食欲が落ちてきてるので、もしかしたら」



戸惑いながらも嬉しそうなお袋の顔を見てやっと現実が見えてきて、千晶にやっとの思いで声をかけたが突然のことで声が上ずっている。



「なんで黙ってたんだ」


「さっきから何度も言おうとしたのに、脩平さんにあとで聞くって言われて、だから言い出せなくて」


「話って、これだったのか……」



こんなことになるとは思ってもみなかった。

充分に気をつけていたはずなのに、こんなことってあるものなのか?

7週目と聞いて頭の中でカレンダーをさかのぼる。

先月の初旬は何をしてたのか……11月の連休は……あっ、旅行に行った頃だ。



「あのとき……」



思わず声がでてしまい慌てて口を塞いだが、さっきよりもっと恐ろしい親父の顔がこちらを向いていた。

覚えがあるんだなと、低く威圧する声に黙ってうなずいた。


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