春秋恋語り
父の怒り顔を横目に、おばさんが疑問を投げてきた。
「脩平君は2カ月間帰ってこなかったのよね。千晶さんが脩平君に会いに行ってたってこと?」
「いや……こっちに帰ってきてたんだ」
「出張先からわざわざ? ふぅん、そうだったの。そうよね、会いたいときってそうかもね。1ヶ月に1回でも会いたいでしょうから」
「それが……」
それがと言いかけて、余計なことだと思い話の続きをやめたところ 「それが何よ」 とおばさんに問い詰められ、とうとう毎週のように帰省していたことを白状した。
「あきれた……脩平君、そうならそうと早く言ってくれれば良かったのに。小野寺さんにも断りのしようがあったのよ。
まぁでも、深雪さんにもそんな人がいたってことで、どっちもどっちかしらね」
おばさんはこんな風に言ってくれたのだが、お袋の顔は真っ赤で僕を睨みつけている。
その顔は、親父以上に迫力があった。
「部屋にも帰らず、家にも顔を見せないなんて、まったく……
それはいいでしょう。でもね、ちいちゃんの話もちゃんと聞かないなんて、どういうことなの。
ちいちゃんのことを真剣に考えてるんだったら、もっと大事にするべきでしょう!
お母さんね、脩平はそんなことはない、きちんとしてるんだって思ってたのに、本当にもぉー
大杉さんのお父さんに、なんて言ったらいいの!」
お袋の言うことはもっともで返す言葉もない。
おじさんが 「まぁまぁ」 となだめてくれたがそれも耳に入らないようで、カッカとしながら僕を責めたてる。
「脩平、物事には順序ってものがあるのがわかってるのか!」
親父の雷はさっきのゲンコツより頭に響いた。
ふたたび親父に怒鳴られるとは……
彼女のまえでなんて無様な姿をさらしてしまったのか。
僕はどこで間違えたのだろう。
何事も抜かりなく手順を踏んで、周囲を固めて推し進めてきたはずなのに、よりによって順序を間違えるとは……
なんて失態を演じてしまったことか。
人生最大の誤算とはこんなことをいうのかと、果てしなく続くお袋の小言に耐えながら思った。