春秋恋語り
10 春を待つ (終)
同窓会当日の空は見事に晴れ上がっていた。
正月早々の開催は遠方からの参加者に好評で、予想を上回る数が 『参加』 で返信されたそうだ。
昼の開催となったのは、学年別の同級会や部活の親睦会が引き続き行われるためで、幹事を務める同級生に千晶の苗字変更を連絡したおりそれらの情報を聞いた。
『大杉さんが嫁さんだって? 羨ましすぎるぞ。彼女、可愛くて人気があったからな。田代、覚悟しておけよ』
幹事の彼がそう言ったのは、部活仲間でもある彼が当時を知っているからで、みなから冷やかされるのは必至だと覚悟を決めた。
つわりが本格化してきた千晶は前日まで辛そうにしていたが、同窓会当日は気分も良く、無理をしないと約束させて二人そろって出席した。
全体の同窓会はあまりにも大勢で、懐かしい顔を探すだけでも大変だった。
部活のくくりでグループができており僕らもその輪に加わったのだが、幹事の口から伝わったのか僕と千晶の結婚はすでに知れ渡っていた。
「いつ結婚したんだよ」 の問いに 「一週間前……」 と答えると、次の質問は決まって 「どうしてそんな忙しいときに結婚を?」 となる。
「急ぐ必要があって……」 と言うが早いか 「できちゃった婚か!」 となり、どれほど冷やかされたか。
「田代がねぇ、ふぅん。慎重で用心深くて、何事にも抜かりのない田代がねぇ。できちゃった婚か。
いやぁ、めでたい! あはは」
「おい、そんなに笑うな。散々恥ずかしい思いをしてるんだから」
「めでたいのに何を恥ずかしがるんだよ。あっ、わかった!
冷静沈着で完全主義者の田代には、フライングは許せないか」
「だよな。コイツ、いっつも ”オレは冷静だ” って顔してたもんな。とにかくメデタイ」
僕が吹部の男連中に囲まれ散々いたぶられ、格好のおもちゃにされていたとき、千晶はというと……
「えーっ! 田代先輩と結婚したの? わぁ良かったね、おめでとう」
「オメデタだって聞いたわよ。ママになる気分、どお? ドキドキでしょう」
と好意的に迎えられていた。
「妊娠初期が一番大事な時期だから用心してね」
「田代さんに甘えて、なんでもやってもらうことね。ゴミだしとかお風呂掃除だけじゃなくて、お休みの日はご飯を作ってもらったり、何でも頼むのよ」
「そうそう、男にはつわりの辛さはわからないんだから、思いっきり甘えてわがままを言っていいのよ」
今では立派な母親になっている女子部員から、妊婦の諸注意や夫操縦法の伝授があり、子どもが先にできたことについても、今は ”オメデタ婚” とか ”さずかり婚” と言っていいことなんだと、男子部員の対応とは大きく違っていた。
「千晶、田代先輩のこと好きだったじゃない。初恋が実ったんだね」
「ホントホント、大杉さん良かったわね。田代君なら真面目なダンナさまだと思うけど。ねぇ、どうなの?」
「あっ、私も聞きたい! どこかで再会したの? それとも、ずっと付き合ってたとか?」
こんな調子で、よってたかって僕は話のネタにされていたが嬉しいことも聞こえてきた。
千晶が中学の頃から僕を好きでいてくれたのは本当だったとわかり、口元が緩むのを抑えきれなかった。