Garnet~大好きの伝え方
ぱたんと音が鳴るように文庫を閉じる。

いつまでも未練がましく加奈の残像が見えるベッドへ放る。

バサッ、とページの開いた状態で本が落下した時にはもう、僕はひとりだった。

情けない。

幻にまで頼るほど、この一週間で僕は加奈を求めているんだ。

きっと、今の僕にマッチを擦らせたら、あたたかい料理や暖炉じゃなくて、加奈が現れるに違いない。

「ちくしょう……」

と、わざわざ言葉に出して、うめいた。

雪山で遭難したみたいに膝を抱え込む。

加奈に逢いたかった。

情けないくらい、加奈に逢いたかった。

人前では口に出せないくらい――

出してしまえばそれこそ、北川が来るたんびにかけている暗示を繰り返しても抑えられないくらい――

逢いたかった。

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