Ｇarnet～大好きの伝え方
なんのために今朝、いつも加奈と待ち合わせている時間より一時間も早く家を出たっていうんだ。

みんな、彼女と顔を合わせて、その場でこの意思が崩れてしまわないようにだ。

もう加奈を、こんな僕に付き合わせちゃいけない。

彼女にはもっと相応しい男が、きっといるはずだ。

僕なんかに付き合わせちゃいけない。

それでも彼女は僕のそばへ寄ってくるんだから、ああして嫌われないほかに、どうしようもない。

「どうしようもないよ、本当に」

空の青さにひとり愚痴る。

世界はなんにも、僕に優しくないんだ。

「浮かない顔だね？」

と、市電に乗り込もうとした時、少し演劇っぽい声で呼び掛けられた。

振り向くとそこに、見知ったクラスメイトの顔がある。

特別高くもない身長に、やや長い黒い髪。

なにが目立つわけでもないのに、どうしてか気品に溢れて見える。

それは彼がピアノを得意としているからかもしれない。
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