トールサイズ女子の恋【改稿】
 暫らくしてタクシーが【Bar Jewelries】の前に停まり、お会計を済ませてタクシーを降りて手を繋いで2人で中に入ったら、カウンターの中にいる三斗さんがニコッと微笑み、私が四つ葉出版社にいくまでカウンター席にいた高坂専務と姫川編集長の姿がなく、仁さんだけがいた。

「お帰り、美空ちゃん」
「三斗さん、ただいまです。高坂専務たちはどうしたんですか?」
「ん~、酔い潰れたから先に帰したよ」
「ここに高坂専務たちがいたの?」

 そっか、水瀬編集長は私が高坂専務とここで飲んだことは知らなかったんだよね。

「実は仕事が終わった後に接待があって、高坂専務も同席だったんです。その後お開きになって、高坂専務に誘われてここに来たんですよ」
「そっか、だから高坂専務は電話で星野さんが俺のところに行くって言ってたんだ」

 水瀬編集長はこれまでの流れを理解するかのように、ふんふんと頷いてた。

「上手くいったんだ」

 仁さんが私たちが繋いでいる手を見て呟いたけど、それは嫌味じゃなくて、ほんの少し口角が上がっていて安堵しているように見える。

「仁さんが水瀬編集長に聞いてって、背中を押すように言ってくれたからですよ」
「聞くのも行くのも決めたのはあんただし、俺は選択肢を言っただけ」
「仁さん、ありがとうございます」
「うん」

 仁さんは相変わらず静かにロックを飲んでいるけど、『うん』という声は優しさに満ちていた。

「俺も仁に感謝してるよ」
「男に礼を言われると、気持ち悪い」
「ありがとう」
「……」

 黙って頷いた仁さんがまたロックを飲み、三斗さんがグラスを拭きながら仁さんを見る。

「ほんと、仁のジンクスは凄いよな」
「そうだ。三斗さんと水瀬編集長が仰ってた、仁さんのツイてるってどういう意味ですか?」
「そっか、美空ちゃんは仁の本名を知らないんだよね。知りたい?」
「知りたいです!」
「仁、名刺を見せれば?」
「分かった」

 私は興味を示すように仁さんの顔を見ると、仁さんは水瀬編集長に促されてポケットから一枚の紙を取り出して、それを私に渡した。
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