トールサイズ女子の恋【改稿】
 美味しい定食を食べ終わって【もりや】を出て四つ葉出版社に戻る為に郊外を歩いていると、幸雄さんの方から手を繋いできた。

「あっ…」
「四つ葉出版社の近くの通りに出るまで、ね?」
「はい…」

 近くの通りまで短い距離だけれど、久しぶりに触れた幸雄さんの手は温かくて胸が高鳴っていて、きっとこの高鳴りは繋いだ手を介して幸雄さんに伝わってるかもしれないと思いながら、キュッと握り返した。

「明日の交流会が終わるのは、遅くなりそうですか?」
「んー、取引先の人との付き合いもあるからね。次の日も仕事があるけど、俺たち(四つ葉)は小さいから親交を深めないと次の仕事が出来ないから大変だよ」

 ただ原稿を作るだけじゃなくて会社同士の繋がりがないと雑誌は書店に並ばないから、幸雄さんは幸雄さんなりに頑張っているんだな。

 もう少ししたら、四つ葉出版社近くの通りになる。

 2人きりの時間があっという間で、また同じ会社の人という間柄に切り替わるから、繋いだ手を離さなくちゃいけないと頭で分かっていても寂しいな。

「美空、ちょっとこっちに」

 すると幸雄さんに手を引かれて通りから隠れるように細道に入り、飲み物の自動販売機の物陰に潜む。

「そんなに寂しい顔をしないで?」
「んっ!」

 私は幸雄さんに耳朶を甘噛みされ、私の方が背が高いという身長差があるので幸雄さんがほんの少し背伸びして噛む形というシチュエーションは初めてだから、温度計のように顎下から徐々におでこに向かって赤くなる。

「俺が先に戻るよ。日曜日、楽しみだね」

 幸雄さんは甘噛みした私の耳朶を指で弄ってじゃあと手を上げて先に通りに向かっていき、私は直ぐに動けなくてその場に力なくしゃがんだ。

「絶対にこの赤さがバレちゃうよ…」

 結局、総務課に戻ったのは15分後だった。
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