トールサイズ女子の恋【改稿】
「あいつの顔、見たか?」
「さっき、廊下で見ました」
「結論から言うと水瀬の馬鹿は昨日の交流会で取引先の奴と口論になって、相手と殴りあったそうだ」
「どうして水瀬編集長が?」
「俺だってそれが分かってたら怒鳴り散らせねーし、俺と高坂は殴った後に駆けつけたから原因を知らん。だからお前なら知っているかと思った」
「えっと…、知りません」

 姫川編集長はかなり苛々としているけど私だって昨日はどんな交流会だったかを幸雄さんから聞かされてないし、口元の怪我の原因を聞きたいけれど無言で通り過ぎて行ってしまわれたから、姫川編集長に聞かれても返答に詰まり首を傾げると、姫川編集長は壁についてた手を下ろした。

「ったく、よりによって印刷会社の人と揉めやがって」
「えっ?」

 印刷会社って、もしかして青木印刷会社?もし幸雄さんが青木印刷会社の人と揉めたのなら、殴られた相手がきっとあの人のことだよね?

「その顔、心当たりがあるな」
「えっと…」
「お取り込み中に悪いけど、星野さんに話がある」
「高坂専務…」

 きっと姫川編集長に想像した相手を言えば、また怒鳴るかもしれないと口ごもっていたら高坂専務が現れ、その顔は神妙な面持ちでいるから話す内容の想像がつく。

「ちっ、分かった」
「ありがと。星野さん、専務室に行くよ」
「はい」

 私は姫川編集長に頭を下げて高坂専務の後に続いて3階に移動して専務室に入ると、高坂専務は自分の椅子に深く座るとため息を吐き、私は高坂専務の向かいに立った。

「星野さんさ、ここに呼ばれた意味を分かるよね?」
「はい…」
「俺さ、言ったよね?社内恋愛には気をつけて、仕事の支障がないようにと」
「はい…」
「水瀬が何をしたか、姫川から聞いた?」
「聞きました。青木印刷会社の人と口論になったと。それと…」
「口論なら人それぞれ考えの違いがあるからフォローが出来るけど、手を挙げちゃ駄目だよな」
「はい…」

 姫川編集長の怒鳴り声よりも高坂専務の感情が一切ない表情と冷たさを含んだ声の方が怖くて震えきてしまい、私は高坂専務の話に相槌をするだけしか出来ない。
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