トールサイズ女子の恋【改稿】
 そうだ、水瀬編集長は彼女がいるじゃない!!

「だ、駄目です!」

 私は腕を解くと水瀬編集長をドンッと突き飛ばして離れ、水瀬編集長はずり落ちた眼鏡をかけ直して戸惑いながら私をみる。

「ほ、星野さん?」
「えっと…、助けていただいてありがとうございました!まだ模様替えが残っているので、その、えっと…、雑巾を洗ってきます!」

 一気に早口で捲し立て雑巾を取ると、ここから逃げるように全力疾走で給湯室にバタバタと駆け込んで、壁に背中を預けて寄りかかり、深呼吸をして落ち着かせる。

「ふぅー…」

 抱き締められた時はこのままずっと腕の中に閉じ込められてもいいとも思ったけど、YUKIの顔が浮かんだ時に自分は何をしてるんだと現実に戻って、水瀬編集長の背中に回してた腕を解いて思い切り突き飛ばしちゃった。。

 未だ水瀬編集長の温もりが身体に残っているから確かめるようにその部分に手を添えると、頬もかぁっと熱くなってきて、きっとゆでダコのように赤くなってるかもと手で頬をぱたぱたと扇ぐ。

 それに胸の高鳴りが止まらなくて更に水瀬編集長を意識しちゃうけど、彼女がいると思うと水瀬編集長の行動が不可解で、こんなことをしていてもいいのかと思う。

「私が彼女の立場だったら、知らない所で2人きりで食事をしたり、抱き締めたりしていたら嫌だ…」

 彼女か―…、YUKIのように可愛くて身長が低くい子なら水瀬編集長の隣に並ぶのはぴったりで、まさに自分が思い描いてる理想の身長差カップルだ。

 さっきまであんなに胸がときめいていたのに、今度はギュッと締め付けられるように痛くて、私ってどうしちゃったんだろ。

 暫らく頭を冷やして在庫室に戻ると水瀬編集長の姿は無く、私は散乱した雑誌や段ボールを片付けて在庫室を出て行った。
< 65 / 162 >

この作品をシェア

pagetop