トールサイズ女子の恋【改稿】
◇第９章:接待と、気づきはじめた気持ち
　在庫室で水瀬編集長から抱きしめられた日から、あっという間に接待が行われる週末の金曜日になった。

　偶然とはいえ接待の相手が元職場の青木印刷会社で、接待の場に顔馴染みの人がいるといいけれど、もし接待の場所に元彼が現れたら平然としていれるだろうか。

　元彼は営業職で接待に同席する可能性も高いし…、別れたとはいえ本気で好きだった人で、付き合っていた頃は身長コンプレックスを気にせずにいられたから、有頂天になっていたあの頃の自分が懐かしいけど、結局は振られて今に至る。

「無事に接待をやりすごせるかな」

　私はお酒を注いだりすることに集中することにして、後は青木印刷会社の人と場を繋げられるような話題をするように心がけていれば乗り切れるかな。

　今回の服装は甘めになりすぎないように、色使いも気をつけて選ばなくちゃ。

　年齢が22～24歳と若ければふんわりとした印象をだせるけど、アラサー間近の28歳としてはそうはいかないから、クローゼットから洋服を取り出して、ジャガード織でニット素材のトップスと黒スカートを組み合わせてみた。

　これなら接待の部屋の中では目立たず、相手先にも失礼がないようにいけそうかな。

　鏡の前で身体をくるくると捻りながらコーディネートのバランスを確認していると、そういえば水瀬編集長とランチに行く前に待ち合わせしていたロビーでも同じようなことがあったなぁ、まさか見られてたとは思わなくて恥ずかしくて何処かに穴を掘って入りたかった。

「ランチやディナーは楽しかったなぁ…―って、だめ、だめ」

　どんなに楽しかったと思い出しても水瀬編集長には可愛いモデルの彼女がいるわけで……、所詮トールサイズ女子の私なんかは一社員としてしか見てないよね。

　抱きしめたのだって段ボールが落ちてぶつかりそうなのを助けただけだから意味なんてないと思うけれど、四つ葉出版社の廊下で水瀬編集長と顔を合わせると、どうしても抱きしめられた時の逞しい腕の力の感触と心の高鳴りを思い出してしまい、あんなに心や体が熱くなったのは初めて……
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