トールサイズ女子の恋【改稿】
 今日の業務は滞りなく残業をせずに出来たので、私と課長は営業の方と一緒にロビーで高坂専務が来るのを待つことにした。

 青木印刷会社の人たちに会えるのは嬉しいけど、今日は接待ということだしあまり慣れ親しんだ感じは控えないといけないから、ちょっと緊張してきて1人でそわそわする。

「お待たせ、みんな揃ってるね」
「全員揃ってますので行きましょう。タクシーを手配しています」

 暫らくして高坂専務が男性の秘書の人と一緒にロビーに現れると、営業部の人が四つ葉出版社の外に出てタクシーを誘導させる。

 私たちも外に出るとタクシーが2台停められていて、先導車に営業部の人と私が、後続車には高坂専務と秘書と課長で乗り込むとタクシーが走り出した。

「課長から聞いたけど、星野さんが青木印刷会社に勤めていたなんて凄い偶然だね」
「私もまさか接待の相手先が、元職場だったとは思いもしませんでした」

 タクシーは都心を走り抜けて徐々に静かな場所へと進んでいき、やがて1軒の料亭の前に停まった。

 料亭の入口には看板がかかげておらず白い提灯が1つだけ灯っており、檜で出来た玄関だけがあって、きっと社長や有名人がお忍びで通っている料亭なのか、一生関わりのないと思っていた料亭の佇まいを前に緊張をしてしまう。

「さっ、参りましょう」

 課長が先導して料亭の入口を入ると、着物を着た女性が玄関先で待っていた。

「高坂様、お待ちしておりました。此方へどうぞ」
「本日はお世話になります」

 私なんて雰囲気に飲み込まれているのに、高坂専務や課長はこういう場になれてるのか堂々としている。

 女性が私たちを部屋に案内をしてくれたのは和室で、大きな机に座椅子が8つあったので今回の接待は私たちを含めて8人だと分かり、下座の位置に奥から高坂専務、課長、私、営業部の人という順に座り、秘書の人は別室で待機をするとのことだ。

「失礼します、青木印刷会社の方がお見えです」

 襖越しに声が聞こえたので姿勢を正すと、静かに襖が開かれて青木印刷会社の人たちが入ってきた。

「おや?星野さんじゃないか」
「ご無沙汰してます」
「…っ!……」

 私に声をかけてきた青木印刷会社の人は部長で、そして最後に入ってきたのは元彼で、向こうも私の姿を見て一瞬だけ目を見開いたけれど無言で末端の席に着いた。
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