トールサイズ女子の恋【改稿】
 青木印刷会社の皆さんが席に着くと飲み物が運ばれたので、私は瓶を手にしてお酌をする。

「まさか星野さんが四つ葉さんの所にいるなんて、世間は狭いな。ワハハ」
「そうですよね。どうぞ…」
「ありがとう……」

 私は元彼にもお酌をし、全てのグラスにお酒が注がれて乾杯をした。

「星野さんは我が社でもよく働いていたし、辞められて残念だよ。四つ葉さんが厳しかったら、いつでもうちに戻っておいで」
「私には勿体無いお言葉です」
「此方も星野さんは貴重な人材なので、手離したくないですね」

 高坂専務がニコニコと微笑みながら言うけど、なんだかその笑顔が恐いと思うのは私だけだろうか、とても威圧感あって、表は温厚で裏は怒らせたら恐いタイプなのかな。

 私は営業部の人と一緒にお酌をすることに徹して、接待を乗りきろうとする。

 高坂専務は課長と共に青木印刷会社の皆さんと話が盛り上がっていて、場の雰囲気は和やかだ。

 話題の中心は出版業界の動きやお互いが思い描いている将来のビジョンで、高坂専務は四つ葉出版社をどんな風に展開していくかを熱く語っている。

「まだ大手より苦境に立たされるのが多いですが、読者へのアピールの仕方はどこにも負けないようにしています。それには青木さんの印刷技術が必要なので、今後とも力を添えていただきたいと思ってます」
「こちらも四つ葉さんと契約してから軌道が上っておりますので、わが社の印刷技術を存分に発揮させていただくことを約束します。それに星野さんが四つ葉さんにいたのは何かの縁なので、これからもこの場に参加していただけるとありがたいです」

 青木印刷会社の上司にそう言われると、嬉しいような、恥ずかしいような。

 何かの縁か…、青木印刷会社を退職しなかったら四つ葉へ転職するきっかけにならなかったし、そこで高坂専務や水瀬編集長とも出会うことは無かっ―…、接待中なのにまた水瀬編集長のことが浮かんできちゃったし、ちょっと気分を変えた方がいいかも。
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