トールサイズ女子の恋【改稿】
 私は課長に声をかけて席を外し、料亭の人にお手洗いへ案内をしてもらって用をすませ、ついでにメイクを少し直しておこうと鏡を見ながらリップグロスを塗り直した。

 鏡に映る私の頬はお酒の影響でほんのり赤く、これ以上酔ってしまわないようにしなきゃ。

「よぉ」
「どうも…」
「待てよ!」

 お手洗いを出たら廊下に元彼がいたので適当に返事をしてその横を通り過ぎようとしたら、急に元彼に腕を掴まれて抱き寄せられた。

「ちょっと、止めてよ…」
「俺たちさ、やり直さないか?」
「なっ…?!やり直さないか?って、いきなり何を言ってんの?彼女はどうしたの?」
「最近我が儘がひどいから、別れようと思ってる」

 まだ別れて無いの?と突っ込みするべきだけど、別れてないとなれば私をキープしておこうってこと?段々むかむかとしてきて、顔が般若になりそうなくらい怒りが沸き上がってきて元彼をきつく睨み付けた。

「馬鹿にしないでよ!そっちから振っておいて、私が…、私がどんな思いをしたか……」

 私は悔しさで一杯になり、じわりと泣きそうになるのを必死に唇を噛んで堪えた。

「悪かったって」

 元彼が抱き締め直して身体が密着すると同時に、水瀬編集長の温もりを思い出す。

 水瀬編集長の時は温かくて落ち着くのに、元彼にはそんな風に感じることがないのは、水瀬編集長の温もりが心と体に焼き付いている証し。

 ああ…もしかして私は水瀬編集長のことを―…、水瀬編集長に対する気持ちに気づきはじめた時、元彼は私の顎をクイッと上に上げさせて顔を近付かせてきた。

「い、嫌っ…、やめ…て……」
「嫌がるなよ」

 キスされる!とそう思ってギュッと目を瞑って唇を噛み、この場にいない人の名前を心の中で叫んだ。

 水瀬編集長!!
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