トールサイズ女子の恋【改稿】
 星野さんに突き飛ばされた日の深夜に取材帰りの仁と【Bar Jewelries】で飲むことになって、普段はカクテルを頼むけど気分的にロックを連続して頼む。

 星野さんの気持ちや行動が理解できなくて、最近胸に霧がかかってたし黒い感情があったから、それをどうにかしたくて何度もロックをお代わりして、グラスを三斗さんに差し出すと仁に手首を掴まれて止められた。

「水瀬、もうやめな。飲みすぎだ」
「まだ飲めるって。三斗さん、お代わりをください」
「作らなくていい、水で。俺はロック」
「分かった」

 仁は三斗さんに俺の前に水を置かせ、自分はちゃっかりとロックをお代わりしてるし。

「水瀬、何かあった?」
「ん―…何を考えているか、よく分からないんだ。俺にはさ何とも思ってない人だと言ったのに、そいつと2人きりになってるしさ。俺が抱き締めたら向こうも抱き締めてくるから、気があるのかと思うじゃない?で、もっと抱き締めたいなぁと思ったら突き飛ばしてくるし……」

 俺が水を一気に飲み干すと、仁もロックを飲み干してグラスをカウンターに置いた。

「水瀬はその人のことが嫌いなの?」
「嫌い…、じゃない」

 嫌いなもんか、好きだから星野さんの考えていることが分からなくて、こんなにも苛々する。

「水瀬の理想の人、現れたんだ」
「うん……、現れた。俺の理想の人、現れたよ」
「俺はお互いの気持ちを話し合った方がいいと思う」
「上手く話せるかな?突き飛ばされちゃってからは、なんて話しかければいいかタイミングが掴めなくてさ」
「水瀬なら大丈夫」

 仁の表情は目に前髪がかかっているから分かりづらいけれど、声は穏やかだから応援してくれてるのが伝わったし、仁のこういうところには敵わないな。

「じゃあさ、俺達で水瀬さんの健闘を祈ろうよ」
「2人とも、ありがとう」
「別に」
「応援してますよ」

 三斗さんが俺にカクテルを、仁にはロックのグラスを差し出して、グラスをぶつける音が綺麗に鳴った。
< 98 / 162 >

この作品をシェア

pagetop