結婚のススメ



やっとの思いで学校に着いたのは、ちょうど午前の授業が終わるチャイムが鳴る頃だった。



「ごめんなさい。遅れました・・・」

朝ごはんを脱いたおかげでお腹はペコペコ。道に迷ってクタクタ、はじめて袖を通すブレザーはヨレヨレ。

ズタボロの状態で職員室に入る。



「君の話は聞いてるよ」
「偏差値も高いお嬢様女子高からうちみたいないたって普通の共学に来るなんて大変なことも多いだろうけどがんばってね」
「さあ、君のクラスに案内しよう」



誰ひとり、怒ったりなんかしないであたしを迎えてくれた。


そういえば、パパが「学校には奈都芽のことはよーく頼んである」と言ってたな・・・

「アキくん」の希望で名字は学校ではそのままになってるらしいし。

理由は「根掘り葉掘り聞かれて面倒だから」らしいけど。



とりあえず安心・・・していいのかな。



ちょうどお昼の時間に、クラスに案内される。



何人かが教室でごはんを食べていた。



「ほら、今朝言ってた転校生だよ」

物腰柔らかい、50歳くらいのおっちゃん…もとい担任の先生があたしを教卓の前に立たせた。



もちろん、転校なんてしたことないからこういう時にどうしたらいいのかわからない。

戸惑ってなんとなく落ち着かない。



「噂の転校生だ!超お嬢様女子高から来たんでしょ?名前は?」

肩に着くくらいの黒髪を揺らした元気そうな女の子が話しかけてくれた。



「む・・・向田 奈都芽」
「あたし、佐伯 万智(サエキ マチ)よろしくね、ナッツ」


ナッツ?

不思議な顔を浮かべると万智は嬉しそうにした。


「ナツメだからナッツ。あたしのことは万智でいいからね。あたしがクラスでいちばんにできた友達だよね?」
「クラスどころか・・・」



この学校で最初にできたお友達だよ。


はじめての友達になんだか胸がワクワクして、これからの学校生活もなんとなくやっていけそうな気がした。












< 12 / 50 >

この作品をシェア

pagetop