結婚のススメ



「ちょっと!痛いじゃないのよ!」
「大丈夫?奈都芽ちゃん。そんなに走ってどこ行くの?」

名前を呼ばれたことにびっくりして顔を上げると、ニコニコ微笑んでいる同年代くらいの男の人が立っている。


「誰・・・?」
「ハイっ。汚れちゃうよ?」

こっちの話なんか聞いてない、って感じで手を差し出された。


「あ、ありがとう」

素直にその手を借りて立ち上がると、廊下の後ろからパパが小走りでやってきた。


「奈都芽、急に部屋を出ていってどうしたの?おや?晃くんじゃないか。そうか、そうか。もう仲良くなったのかい?」

パパはあたしじゃなくて「アキくん」と呼ばれた人の方を見ていた。



「奈都芽、彼が堀田 晃(ホッタ アキ)くんだ。君の旦那さんになる人だよ」



「よろしくね、奈都芽ちゃん」
パパと似たようなニコニコ顔で「アキくん」はまたあたしに手を差し出した。


「パパ!」
こんなのってあんまりだ。ひどすぎる。
絶対に逃げてやる、そう思った。のに。



「いやあ、嬉しいな。実はね、わたし達夫婦と晃くんのご両親とは大学時代からの旧友でね。いつか子どもが産まれたら結婚させようって約束してたんだよ」

そんな勝手な話、ありえないと言わんばかりに怪訝な顔を浮かべてみるけど、パパは気付かないのかわざとなのかニコニコしたままだ。

「奈都芽、君たちの結婚を誰よりもいちばん楽しみにしてたのはママなんだよ。ママの願い、叶えてくれるね?」

ここでママの話を出すなんて、パパはずるい。
ママが、って言ったらあたしが断れないのを知ってて言ってるんだ。


「・・・わかったよ」



こうしてあたし、向田奈都芽は16歳の誕生日を迎えた今日、人妻になりました・・・。


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