キスマーク
給湯室に入り、汚れた灰皿を洗っていると、
「あれ、詩織?」
と、麻里の声。
「常務のとこ、もう行って来た?」
「うん。麻里は今から副社長のとこ?」
「ううん。もう行って来た。自分用にちょっと一杯、と思って」
業務中は名字に“サン”付けが鉄則だけど、ついつい二人になると下の名前で呼び合ってしまう私達。
「このお湯、使って良い?」
「うん。どうぞ」
「詩織も飲むでしょ?淹れといてあげる」
「ありがと」
洗い物を終え、麻里が淹れてくれたコーヒーを飲んで私も一息つく。本当はこんなに場所でのんびり休憩している場合でもないんだけど、主任の目を盗んで麻里と勝手に一休憩してしまうことはしばしば。