キスマーク



まるで、欲しい物を強請る子どものような言い方。


鬱陶しいと突き放して、さっさと切ってしまえば良いのに出来ないのは、彼が私の母性を擽る術を身につけてしまっているから―…


結局、



“少し会うだけなら”



と、自分のマンションの住所を教えてしまった私は弱い。



本当にサヨナラをする前に、最後にヒロのお強請りを聞いてあげただけ。



自分で自分に、そう言い聞かせるしかない。





それから二十分も経たないうちに



ピンポーン―…



と、部屋のインターフォンが鳴った。


勿論、鳴らしたのはヒロ。


オートロックを解除してマンションの中には入れたけど、部屋の奥までは入れるつもりは無い。



立ち入りを許すのは玄関まで。



私が最後に聞いてあげることが出来るお強請りは、“少しだけ会いたい”という言葉だけ。


その他はもうどんなに甘えた言葉で言ってきたって、聞くつもりは無い。




それは、


ズルズルとサヨナラを先延ばしする意思の弱さを、もうこれ以上出さないようにと何度も何度も繰り返す言葉。










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