キスマーク



浮かんできたのは、



“―…別れよう”



一ヶ月前、そんな言葉を受話器越しに告げてきた元彼で、昼間にバッタリ会ってしまった一哉からの言葉。



三つ年上の彼。



勤める企業は大手。出身大学も誰もが知ってる一流大学。


向上心が強くて、仕事でも何時までも平のままではいたくないっていう出世思考タイプ。



そんな一哉に出会って直ぐにアプローチを受け、私も夢中になった。向上心の強い男性は好き。けど、それ以上に私の心を掴んだのは、



“愛してる”


“結婚しような”



そんな甘い言葉の嵐。



付き合い初めから、一哉は私にそんな言葉を何度も何度も囁いていた。



普段の一哉からすると、それはきっと意外な一面。私だけに見せる甘い表情。近い将来、結婚する相手は一哉だと信じて疑わなかった。



なのに、


交際三年目。お互いの年齢的にも本格的に結婚を考え出す時期の筈なのに―…彼の口から出たのはプロポーズなんかじゃなく、別れの言葉。



私っていう彼女がいるくせに、“彼女が出来た”なんてふざけた理由。




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