キスマーク
「そっちも早く友達のとこに戻りなさいよ」
突き放すように言って、またバカな気を起こさないうちに、と、私はワンピースのホルダーネック部分を結び直す。さっきつけられた“しるし”とやらを鏡で確認すれば、何とか上手い具合に隠れていた。
良かった……と、いらぬ気を回さないでよさそうな事にホッとする。
早く化粧室を出ようとドアノブに手をかける。と、
「大事にしてよ、それ」
人差し指で自分の鎖骨を指差して言うヒロ。
「……」
私はその言葉を無視するように何も答えず、少し乱暴にドアをしめる。
大事にしてよ?冗談じゃない。こんな印、私にとっては邪魔なマークでしかない。こんな調子だとどんどん良い出会いが遠のいていきそうだ。
フロアに出て、自分の席に戻り、
「すみません」
と、一応、隣りに座る柴田さんに声をかけ、グラスに残るシャンパンを飲み干す。グラスをテーブルに置くと、
「詩織さんがいなかったから寂しかったよ」
と、柴田さん。周りを見れば隣り同士で会話を楽しんでるし、確かに居辛かっただろうな、と思う。