キスマーク
「でね、」
と、また始まる柴田さんの一方的なトーク。また柴田さんの話を聞きながら一応相槌を打つ。「へぇー」とか「そうなんですねー」なんて言いながら、聞いているのは3割くらい。
後の7割は周りに意識がいってしまってる。このフロアの何処かからヒロが見てる。でも、何処のテーブルなのか見回して確認する勇気は無い。勇気、というよりも私がヒロを意識していると思われるのが嫌だ。
今もこうして、愛想笑いをしながら隣りに座る男の話を聞いている私を見て嘲笑っているんじゃないかと思う。
新しく印されたキスマークからも、ヒロと同じ様に見られている気がしてならない。
大体、麻里から誘いの電話が会った夜、“行くなってコトでしょ?”とはヒロから言われたけど、ストレートに参加を止めるような言葉は言われていない。
なのに男除けと言わんばかりのキスマーク……
邪魔。
ヒロもこのキスマークも……やっと真面目に恋愛相手を探そうと思っている私とって邪魔としか言い様がない。けど、
“明後日は絶対に良い相手見つけるから、そうなったらもう今夜限りね”
一昨日の晩、ヒロに吐いた言葉は実行されない。きっとまた、会おうと言われれば会ってしまう。ヒロと抱き合って快楽を感じて淫らに声をあげることになる―…
そう思ってしまう私はどうしようもない女だ。