キスマーク
「詩織、俺―…わかる?」
呼び慣れた口調で私の名前を口にする、電話の向こうの男。
「―…一哉?」
「ああ」
元カレ。一哉だ。
「どうしたの?」
一哉から連絡が来るなんて、別れを告げられて以来のこと。わざわざ携帯に連絡をしてくるなんて何の用があってか、と思う。
「この間、久しぶりに詩織と会ったら、もっとゆっくり話がしたくなってさ」
「話?」
「別に重要な話があるとかそういう訳ではないんだけど―…食事でもしながらどう?」
「……」
“どう?”と言われても、今さら一哉と会って食事をしたところで私に何のメリットがあるというのか。
けど、
「俺達、あんな別れ方でさ―…気になってたんだ。弁解というか、詫びたい気持ちがあるというか……」
一哉の口から出てきた“詫び”なんて言葉に断ろうとしていた気持ちが揺らぐ。