キスマーク
「わかった」
と、一哉に返事をしながらも頭の中では違う男の事を考えていた。頭の中に映し出されているのは目の前を通り過ぎていったヒロと見知らぬ女のツーショットの残像。
進行方向を向きながら、隣りの彼女と会話するヒロをガラス越しに目で追った。
ヒロは私の存在に気付いていない筈。
もし、あの瞬間私と視線が合ってしまったのなら、ヒロはどんなリアクションをしてくれたのだろう、なんて考える。
焦った顔でも見せてくれた?
それとも上手く誤魔化してくれた?
私が簡単に丸め込まれる女じゃないとわかっていても、余裕の表情で“ただの女友達だよ”とでも弁解してくれたのだろうか。
そこまで思うと、そんな事を考える自分が可笑しくなってフッと鼻で笑ってしまう。
「詩織?」
「ううん、何でもないの。ごめんなさい」
「じゃあ、また後で」
「ええ」
一哉とこれから会う約束をして通話を切る。