キスマーク


でも、今日はそんな話題はどうでもいい。仕事の話を聞いて、やっぱり彼は出来る男なのだと今さら惚れ直したいわけでもない。あの日の一方的なサヨナラをあっさりと受け止めなければ良かったと、一哉と別れた事を後悔したいわけでもない。


仕事の話が途切れると、二人の間に流れる沈黙。



「詩織はさ、」



と、先に口を開いたのは一哉。



「新しい男、出来た?」


「新しい男?」



「いや、俺とはあんな別れ方だったからさ。今は良い恋愛してるかな、と思って」



そんな一哉の言葉に水割りを口に運ぼうとしていた手が止まる。どこか上から目線に聞こえる言葉。



今日、わざわざ私を呼び出したのは随分前に振った女の恋愛事情の心配というわけ?



おかげさまで良い恋愛なんてものには疎遠になってる。


年下の学生をつかまえて、夜の情事を繰り返して、最近ではその傍ら、真面目な恋愛が出来そうな新しい男を漁りに合コンへ繰り出すようになって―…



良い恋愛がどういうものかさえ、時々忘れそうになる。



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