キスマーク



新しい相手を見つけて振った側の人間は随分と余裕があるのね。



この感じだと、まだ彼女とは続いているんだろう、と思う。でも、それは当然の事。


だって相手は勤め先の常務の娘。一哉が手放すはずが無い。



そう思いながらも、



「一哉は?続いてるの?彼女と」



なんて訊ねる私。



「ああ。続いているよ」



予想通りの一哉からの返答。


じわりじわりと私の中で黒い塊が大きくなっていくのを静かに感じる。



「常務の娘さんよね。社内恋愛だったの?」


「まぁそれもあるけど……今だから言うと部長に勧められてね」


「部長?」


「常務から良い相手がいないか、って言われてたみたいで」


「白羽の矢が立ったのね」



水割りを飲みながら、クスリ、と笑ってみせる。少し、嫌味を込めるように。




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