キスマーク
腕時計を確認すると時刻は九時過ぎ。
「そろそろ出ようか」
という一哉の言葉に、
「そうね」
と、頷く私。
「会計してくるから詩織は先に出てて」
「いいの?」
「勿論」
「じゃあ、お言葉に甘えて。ごちそうさま」
そう言って、私は一哉よりも先に店を出る。
店を出ると、また腕時計を見てしまう私。
バッグから携帯を取り出して確認するけれども、誰からの―…ヒロからの連絡は無いままだ。
連絡を待っているつもりは無いのに、自分はドタキャンした身であるくせに、ふと気付けば気にしてる―…
と、
「詩織」
会計を終えて出てきた一哉が「行こうか」と私の肩をポンと叩く。
「今日は悪かったね。急に呼び出して」
「ううん。こちらこそ、ご馳走してもらったし」
「でも良かったよ。久しぶりに詩織と会えて」
そんな会話をしながら廊下を歩き、エレベーターが来るのを待つ。
エレベーターが到着し、乗り込む私と一哉。
“侘び”なんて言って呼び出されたけれども、結局お互いの近況を話して、飲んで、食事をしただけの時間、か―…
そう思ったと同時に、一哉がエレベーターの階ボタンを押した。