キスマーク



エレベーターに乗れば、階ボタンを押すのは当たり前だけれども、一哉が押したのはエントランスがある1階ではなく、客室のある階。


そんな一哉の行動に何も言わず、ただ一哉の目を見ると、



「部屋で飲みなおさないか?」



と、一哉。



「―…彼女がいるのに、それはマズイんじゃないの?」



と、返しつつも、一哉からのそんな誘いを想定していたかの如く私は冷静だ。


そう。


一哉から連絡があった、あの時点で、こんな展開は予想の範囲内。



だから、敢えて、今さら一哉からの呼び出しに出てきたのだから―…



「大丈夫だよ。俺達、大人だろ?」


「大人―…ね」



一哉の言う“大人”が何を指すのか。つまり、ここから先に起こること……その出来事に対しての対処は暗黙の了解。自分達の立場を考えた、大人の対応を、ということ。




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