キスマーク
年下の彼
「はぁ―…っ、はぁ……っ」
タクシーを降りた私は息を切らし駅の構内を走る。
乗車したタクシーの運転手がタオルを貸してくれたけど、髪も服も酷いままだ。
そんな姿であっても、茶色い髪、長身―…ヒロと同じ背格好の男を見つけては、違う、違う、違う―…と、また構内を走る。
走りながら腕時計を見れば、時刻は22時過ぎ。
私の就業時間に合わせてという事だけで、ちゃんとした時間の指定もしないまま、駅の何処で待ち合わせるかも決めないまま―…ヒロの言葉と指切りを頼りに連絡がつかないままの彼を探す。
違う、違う、違う―…いない。
慌しく首を左右に振り、前や後ろも確認して彼の姿を探す。
人込みの中、何度も何度も辺りを見渡す。けれども―…
ヒロの姿は見つからない。
「いない……」
今夜はもう会えないのだ、と思う。