想いは硝子越しに
「ただいまー。」
「あ、お帰り、未沙。」

なっちゃんや他の仲良しメンバーとひたすらカラオケで熱唱した後、帰った家の玄関にこの時間には普通ならまだないはずの靴を見つけた。

「あ、お兄ちゃん帰ってるんだ?」
「今日のバイト、いきなり休みになったみたいよ?」
「そっか。」

二言三言お母さんと会話を交わしながら二階にある自分の部屋に向かう。

私の部屋は階段を上がって突き当たりまでいった所だ。

その隣の部屋に、何時もは感じない人の気配がある。

「…本当に帰ってる……」

自分の部屋に入って制服を脱いで、普段着に着替える間もついつい隣の部屋が気になって仕方がない。

ちょっとした物音でもすぐ反応して聞き耳たてちゃうのは良くないって判ってる。でも……

「何してんだろ……」

私はつい無意識に声を潜めてた。

静かにしていると隣の部屋から色んな音が聞こえてくる。

街中でよく流れてる人気アーティストの歌声。この曲聴きたかったんだけどまだCD買ってなかったんだよね…貸してって言ったらお兄ちゃん、貸してくれるかな?

あ、ギシって音がした。ベッドに寝転がって聴いてたのかも。

お兄ちゃん、ベッドこっちの壁側に置いてたんだ。入った事ないから知らなかったよ。

壁にへばり付くみたいな格好で必死に隣の様子を伺うなんて本当はしちゃいけない事なんだろうけど、普段何してるのか全然わかんないお兄ちゃんの生活をちょっとだけ垣間見れた気がして私は好奇心を抑える事が出来なかった。

「…あ~っ、何してんだろっ?」
「ご飯出来たわよー!降りてらっしゃい。」

お兄ちゃんがこちら側の壁から離れたのか、向こう側の音が全く聞こえない。

何とか音を拾おうと壁に耳を擦り付けていると、下からお母さんの声が聞こえてきた。

「はーい、今行くー!!」

呼ばれた声でまだ制服のままだった事に気付いた私は、慌てて着替えると脱ぎ散らかしたまま部屋を出た。

< 8 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop