想いは硝子越しに
「……あ………」

部屋を出ると丁度お兄ちゃんとばったり出くわす。

「お腹減ったね。今日のご飯何かな?」

きっとご飯に呼ばれたから出てきたんだと思ってそう声をかけたんだけどどうもおかしい。

お兄ちゃんの格好、どう見ても今から出かけますって感じだ。

「あれ、ご飯なのに出かけるの?」
「ああ、飯食いに。」
「へ?ご飯出来てるのに?」
「ああ。」

そう言ってさっさと階段を降りていくお兄ちゃんの背中をあたしはただただ見つめてた。

お兄ちゃんは何を言ってるんだろう?

今お母さんがご飯出来たって言ったよね?お兄ちゃんだって聞こえてたはずなのに。

ダイニングにはきっと4人分のご飯が並べられてる。こんな風に家族揃って食事出来るなんて入籍した時ぶり位だもん、きっとお母さん何時もより気合入れて作ってると思う。

「……待ってよ!」

玄関を出ようとした所であたしはお兄ちゃんの腕を掴んだ。

「お母さん、久しぶりにお兄ちゃんが家に居るからきっとご馳走だよ?一緒に食べようよ。」
「何で?」
「何でって……」

何でって、こっちが聞きたいよ。

ただ単に一緒にご飯が食べたいって思うのは変な事なのかな?

「俺の事は気にしなくていいから。一緒に暮らしてはいるけど、居ないもんだとでも思っといて。」
「え…ちょっ………」

どうしても納得出来なくて話を続けようとしたけど、今度こそお兄ちゃんは止める暇もなく出て行ってしまった。

「…どういう事?」

残された私の頭の中は疑問ばかりがぐるぐると頭の中を回っていたけれど、このままここに居ても仕方がないと思い直して一人ダイニングに向かったのだった。

「あら、浩介は?」
「ん~、何か用事出来たみたいよ?」
「あら、そうなの?久しぶりに一緒に食べれると思って沢山作ったのに。」

ダイニングに入ると予想通りの状態が目に飛び込んできた。

テーブル一杯に並べられた沢山のおかず。しかも豚カツやらから揚げやらもの凄いボリューミーなものが何時も以上に用意されてる。

いや、久しぶりにお兄ちゃんがうちでご飯食べるって思ってたんだろうから張り切るのは判るんだけど、さすがに男の人でも肉系の揚げ物二種類はキツいと思うよ、お母さん。

でも、綺麗に盛り付けられてるご飯を見てやっぱりお兄ちゃんが家に居るの凄く嬉しかったんだろうなって思うと知らず知らずのうちに表情が曇ってしまう。

今までずっと仕事ばかりしてきたからお母さんはあまり料理が得意だとは言えない。

それでも料理本と格闘したり、TVのお料理番組チェックしたりして少しでも美味しい物食べさせてあげたいって努力してるお母さん、凄く可愛いんだ。ずっと二人で生活してきたけどこんな一生懸命なの、久しぶりに見たから。

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