妖乱譚(ようらんたん)~幻魔神戦記~
「…ふふっ」

「どうか?」

「いや、緋色さんは昔から好奇心旺盛なお人好しだったなーって」









美しい大人の女になった紅緋を見て昔の可愛い幼子が懐かしく思えた








「今思えば八つ当たりだったんだよね(笑)」

「好奇心が勝って右から左に聞き流していたが今思えば槍のような言霊だったぞ?」

「でもあの木の実を取りに行かせた稚児達も緋色さんだったからよかったよね。白姫にあそこまで行った理由、普通なら庇わないし」









居なくなった紅緋を心配して泣く白姫に彼女はこう説明した








『ちごの方々がうわさするので一目見たいと出ていったらば、きりも相まってまよってしまい、こまっていたところにぐうぜんいあわせた方におくってもらったのです』









長に気に入られた人間を陥れようとした稚児達を庇い、責める事もしない紅緋はその理由をこう述べた











『せめたところで何になりましょう?うそも言ってないのだからもんだいはないのだし』








当時九つになるかならないかの幼子とは思えない言い分に脱帽した事もあった










「緋色さんは優しいよねー」

「そうか?」












優しい人間の女









それ故に傷付き、それをなかった事にしようとする








自分が愛して止まない女の心は、まるで底の見えない黒い沼のようだった



優しいが故に他には明かさず、他に明かさぬが故に病んだ心の奥底



明かしてしまえば彼女は自らその底のない沼に堕ちていくだろう









『…昔のように、二人だけの秘密、そうしよう?聴司殿…』










心を読んでしまった時、紅緋に言われた言葉



悲しそうに微笑んだ紅緋が隠そうとする唯一にして最大の弱味











自ら生み出した罪悪に蝕まれる彼女を救うためなら、聴司は信頼する鈍や銀呼にすら隠し通そうと決めた









そして『二人だけの秘密』という言葉は、聴司にとっては、なにより甘い誘惑だった












「あ、もう片方もしよ?」

「構わないが、普通には出来ないか?」

「鉄くんが最大限慎重にしても揺れるものは揺れるよ?可愛い耳を穴だらけにしたくないし」








どうしても抱き付きたい聴司に紅緋は溜め息を吐いた







「…一度くらい休息はあるだろう?その時にしてくれ」

「んー、…わかった」

「…だからと言って抱きつきながらも態と失敗するのも嫌だからな?」









そう言えば聴司がきょとんとした










「緋色さん、読心術使った?」

「七年見ていれば予想がつく。そうでなくとも聴司殿は主様と思っている事が似ているからな」

「僕過保護かな?」

「過保護というより甘過ぎる。鴉天狗の長夫妻といいあやの殿といい、飴と鞭でも飴の方が多過ぎる(汗)」

「妖の国大半と銀呼だもんね(笑)」









人間であるという『重荷』を抱える紅緋としては甘やかされる事に未だ慣れることが出来ない


優しくしてくれる事は嬉しいが、ここまでくると逆に心配になる










「笑い事ではないし、銀呼殿に睨まれるのは私だ」

「銀呼はただの照れ隠しだよ(笑)」

「…厳しくしてくれるのは有り難いが、あれを照れ隠しと呼べるか…」








厳しくしてくれる銀呼の方が有り難いかと言われたらそうでもない


白姫曰く「指南という名の虐待」


虐めを通り越して拷問に近かったともされているから心から感謝出来ない(爆)









「鈍殿くらいが丁度いいのだが…」









普通に接し時には厳しい鈍が標準になっているが、大半の妖は群を抜いて紅緋に甘い



それもまた紅緋が妖と人間の共存共栄を望む理由でもあるのだ
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