妖乱譚(ようらんたん)~幻魔神戦記~
その時、風が吹いた
嫌な風だ
姉がそう思い顔を上げた
そこに顔があった
青白く不気味な、人間の顔が
「っ!?」
「ねぇさまっ」
「こはく!あかごをっ!」
赤子を弟に託し、その背に二人を庇いながらその姿を見た
青白い顔を隠そうとする長い漆黒の髪は闇そのもの、その隙間から垣間見える切れ長の瞳は血のように赤く、髪と同じく漆黒の着物に袖は無く、青くも映る白い腕
しかしその先は獣の手。鋭い爪を持つそれは虎のようで、視線をずらせば蛇の尾が覗いている
ヒト成らぬモノ
あやかし
姉はその姿に得体の知れないおぞましさを覚え、こはくは親近感と同時に嫌悪感を覚えた
「…成る程」
低く、小さく呟きながら妖は腕を伸ばす
獣の腕は、忽ち人間のものへと変貌する
「…こはく、うごくな…」
「…健気な事だ。弱き者を庇う、慈悲深く汚れなき魂というのは…」
瞬間姉の腕に痛みが走り、体が宙に浮いた
「実に、壊し甲斐がある」
「ねぇさまっ!」
妖に掴まれた右腕を見た姉がこの妖に捕まったと気付くのに時間は掛からなかった
「お前が死ねば、さぞその幼き男の子は私を恨むだろう」
「わ、わたしはころせばいいっ…。だがこの子たちだけは…!」
命を消されようとしている姉は、しかし乞うのは血の繋がりのない幼子と赤子の命
それを嘲笑うかのように妖は言う
「お前の命だけでは足りぬ。…そう、赤子とお前が死んでこの男の子が私を殺そうと憎悪を抱く。それを見たい…」
「ねぇさまをはなせっ!あかごなんかくえばいいっ!」
こはくは赤子を妖の足に投げつけた
その足元に転がり、火が付いたように泣き出した赤子に姉の顔が青くなり、妖から抜け出そうと暴れる
「こはくっ!なんてことをっ!っはなせっ!」
「あかごなんかいなくていいっ!ねぇさまがいればいいっ!」
そう言い放つこはくに、妖は愉快そうに笑う
「…女の子よ。お前のためならと弟が犠牲にしたのは赤子だと。とんだ獣を飼い慣らしたものだ」
「こはくはけものじゃねぇっ!」
「獣だとも。自らは犠牲にならず、欲しいものを手にしようと人身御供を画策する醜い獣」
愕然とする幼子を他所に妖は嘲笑を止めず、辺りを見回しある所で止まる
その先には地から突き出た大きな石
「や、やめろ…」
「この獣、私が飼うために」
「やめろおおおぉぉぉぉっ!!」
石に向かい姉を掴む腕を振るい、こはくの小さな手が伸びる前に
「やはり死ぬのは、お前だ」
離した
嫌な風だ
姉がそう思い顔を上げた
そこに顔があった
青白く不気味な、人間の顔が
「っ!?」
「ねぇさまっ」
「こはく!あかごをっ!」
赤子を弟に託し、その背に二人を庇いながらその姿を見た
青白い顔を隠そうとする長い漆黒の髪は闇そのもの、その隙間から垣間見える切れ長の瞳は血のように赤く、髪と同じく漆黒の着物に袖は無く、青くも映る白い腕
しかしその先は獣の手。鋭い爪を持つそれは虎のようで、視線をずらせば蛇の尾が覗いている
ヒト成らぬモノ
あやかし
姉はその姿に得体の知れないおぞましさを覚え、こはくは親近感と同時に嫌悪感を覚えた
「…成る程」
低く、小さく呟きながら妖は腕を伸ばす
獣の腕は、忽ち人間のものへと変貌する
「…こはく、うごくな…」
「…健気な事だ。弱き者を庇う、慈悲深く汚れなき魂というのは…」
瞬間姉の腕に痛みが走り、体が宙に浮いた
「実に、壊し甲斐がある」
「ねぇさまっ!」
妖に掴まれた右腕を見た姉がこの妖に捕まったと気付くのに時間は掛からなかった
「お前が死ねば、さぞその幼き男の子は私を恨むだろう」
「わ、わたしはころせばいいっ…。だがこの子たちだけは…!」
命を消されようとしている姉は、しかし乞うのは血の繋がりのない幼子と赤子の命
それを嘲笑うかのように妖は言う
「お前の命だけでは足りぬ。…そう、赤子とお前が死んでこの男の子が私を殺そうと憎悪を抱く。それを見たい…」
「ねぇさまをはなせっ!あかごなんかくえばいいっ!」
こはくは赤子を妖の足に投げつけた
その足元に転がり、火が付いたように泣き出した赤子に姉の顔が青くなり、妖から抜け出そうと暴れる
「こはくっ!なんてことをっ!っはなせっ!」
「あかごなんかいなくていいっ!ねぇさまがいればいいっ!」
そう言い放つこはくに、妖は愉快そうに笑う
「…女の子よ。お前のためならと弟が犠牲にしたのは赤子だと。とんだ獣を飼い慣らしたものだ」
「こはくはけものじゃねぇっ!」
「獣だとも。自らは犠牲にならず、欲しいものを手にしようと人身御供を画策する醜い獣」
愕然とする幼子を他所に妖は嘲笑を止めず、辺りを見回しある所で止まる
その先には地から突き出た大きな石
「や、やめろ…」
「この獣、私が飼うために」
「やめろおおおぉぉぉぉっ!!」
石に向かい姉を掴む腕を振るい、こはくの小さな手が伸びる前に
「やはり死ぬのは、お前だ」
離した