妖乱譚(ようらんたん)~幻魔神戦記~
「ああぁあ゛あ゛あぁぁ゛あぁぁあぁ゛っ!!」

















止まらぬ赤子の泣き声









森に響き渡るこはくの悲鳴









岩に向かう自分








全てがゆっくりと見えた時、姉は気付く









自分はじきに死ぬ、と














命を懸けて助けてくれた父母に詫びる









ながく生きられなんだ、と









そして悲痛な叫びを上げるこはくに願う








どうか赤子とともに生きろ、と












姉は刹那に待つ死を受け入れ、目を閉じた























しかし何時までも痛みはなく、姉はゆっくり目を開ける









見えた光景に言葉が出なかった








自分が宙に浮いている





それは先の妖に飛ばされた浮遊ではなく、空を翔んでいるのだ













「…怪我は、ないな」








不意に落ちてきた声に慌てて見上げる









山伏装束を纏った男が自分を横抱きにして飛んでいた



薄い灰の髪に漆黒の目をした端正な顔立ちの男は、しかしその背に漆黒の翼を持っている






この男も妖だと理解したが、先程の妖に感じたおぞましさを一切感じない







「あ、りがとう…」

「…降りるぞ。離れるな」











男はこはくと赤子の側に着地した




脚が地に着くと同時に姉は慌てて泣き叫ぶ赤子を抱え、放心するこはくに呼び掛ける






「こはく!だいじょうぶか!?」

「ねぇ、さま…」

「…赤子をぎせいにしてまで、わたしは生きたくないよ」








自分を助けようとして赤子を犠牲にしようとしたこはくの行動に、姉は切実に訴えた






その汚れのない目を、悲しそうに諭すその目を、こはくは見ることが出来なかった








「…ん…」









男は離れた事を気にしたが、子供達が自分の背後にいる事を確認し目の前の妖に向き合う







「…随分な事をしたもんだな」

「鴉天狗(からすてんぐ)が、私の獣を飼い慣らす邪魔をするか」

「…あの男の子や赤子をどうしようが関係ない」











男、鴉天狗は小太刀を抜く








「だが、あの女の子に手を掛けようものなら俺も黙っていられんからな?」









其を聞いた妖は歪んだ笑みを見せた


















「私に刃を向けるか?この鵺(ぬえ)の長に」
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