妖乱譚(ようらんたん)~幻魔神戦記~
頭は猿、体は狸、四肢は虎、尾は蛇






暴れれば手の付けられぬ妖と恐れられた最悪の獣









「あの獣は私のものだ。獣を飼い慣らすあの女が消えれば獣は憎悪に支配され、まず無力な赤子を殺す。お前が死ななかった、死ぬに値しなかったせいで姉が死んだと。それを飼い慣らして楽しむための道具に過ぎない女のために死ぬか」

「…悪趣味」








鴉天狗の呟きは鵺に届いたかは知る術はない










「…引く気はないか」

「だが新たな楽しみは増えた。女の子がお前に希望を持っているのならその希望を潰し、絶望しながら死んでもらおう」

「…本当に悪趣味だな」










鴉天狗の纏う空気が凍る








姉は赤子とこはくを庇いながら行く末を見詰めた


















「待ちや」










突如響く凜とした女の声






見回せば、絢爛豪華な着物を纏う美しい女がいた







金に輝く髪、その上にある三角の耳、後ろには九の尾










「…狐の長か」

「…后(きさき)」

「鵺の長が珍しく降りたと思えば、こういう事じゃったか…」









后と呼ばれた狐の長は子供達に近付く







震えながらも幼い子供を守る姉の頭を優しく撫でる








「妾が来たからにはそなたらに危害は及ばぬ。楽にせよ」








そう言われた姉の身体の震えが止まり、安堵したように見えた









「鴉天狗よ。この場は妾に任せよ。そなたは妖の長達に伝えよ。人間の幼子達を迎えると」

「正気か?」











そう言った鵺を后は睨む





「何もしらぬ妾だと思うたか?そなたがそこな男の子を飼い殺そうとしていることはわかっておる。それを黙ってさせるとでも?」

「ふん…」

「それに、全ての妖が人間を憎んでいる訳ではない」











后は姉から赤子を預かりあやすと、泣いていた赤子がぴたりと泣き止んだ









「おお、良き子じゃ。大きくなれば利発な姫になろうな…。この幼子達は妾の信頼する者達に預ける。貴様のような輩に指一つ触れさせぬ」











后の言葉に鴉天狗は頷き、闇夜へ飛び立つ










「…ならば条件を出そう。もしも呑めぬのであれば幼子達を血の海へ沈めよう」








脅す形となった事に姉は気付き訴えようとしたが、それを后が止める









「…申してみよ」

「赤子ははそうでいい。















幼子のどちらかは私が貰い受ける」
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