妖乱譚(ようらんたん)~幻魔神戦記~
后と姉は目を見開いた








「無論殺しはしない。…楽しみが減るからな」

「…ならわたしが行く!こはくをこんなあやかしなんかにわたさないっ…!」










ふいにこはくが立ち上がる









「おれ、いく」

「こはく!?」

「そこのあやかしがいうとおりなんだ。おれはけもの。おれのいのちおしさにあかごをさしだすみにくいけもの」









ふらふらと歩き出すこはくを止めようとするが身体が石になったように動かない











「このみにくいさががねぇさまをころすんだ。それは、じぶんでころすよりはるかにおもいかせになる」

「こはく…、だめだ…」











自分のために涙を流す姉を見て、心が満たされるのがわかる






真っ直ぐな優しさを向ける姉に、こはくは笑う









「だからおれは、ねぇさまのそばにはいられない。だから、おまえについていく」

「些か予想は外れたが、これもいい余興だ」











妖はこはくの手を掴む










「獣は貰い受けた。後は好きにするがいい」









そう言うとこはくと共に妖は闇に消えた









「こはくっ!」











手を伸ばすが時既に遅し








静寂だけが、その場に残された











「こ、はく…っ!」









姉は自分の無力さを悔いた









「わたしが、わたしがもっとこはくの事をしってたら…。わたしがもっと、つよかったら…」










弟を救えなかった悲しみと自分への怒りに狂いそうになる少女を見かねた后は赤子を抱いていない腕で姉を抱き締めた












「…女の子よ、自分を責めるでない。自分を責めればそれは自身を蝕む呪詛となり、いずれそなたは身を滅ぼす」











強くも優しい言葉は、もうこの世にはいない姉の父母を思い出させた











「無力さを恨むなら、無力を悔いるなら、立ち止まらずに進めばよい。だから、自身を責めてはならぬ…」










后の胸に抱かれた姉は、慟哭した











「…お前をある一族に預ける。変わり者故身の安全は保証出来ぬが、願うなら来い。そして強さは自分で掴むのじゃ」












姉はただただ哭いた









そして誓った













強くなる










もう、誰も不幸にはさせぬ












姉は、そう決意した









それから七年の月日が経った










これは一人の少女の、妖と人間の間で葛藤する物語の幕開けの序章に過ぎなかった
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