妖乱譚(ようらんたん)~幻魔神戦記~
弐:紅緋
鴉天狗の村
烏のような嘴をした顔に黒い羽毛に覆われた体、自在に飛翔することが可能だと される伝説上の生物と言われる者達が暮らす地
その入り口に佇む青年、鈍(にび)は何かを待っていた
名の通り青掛かった薄い灰色の髪に目と同じ漆黒の翼を持つ
普通の鴉天狗と違い翼以外は常に人の形をとっており、痩せ型だが背丈は高く、村で一二を争う武術の達人と謂われている
「鈍殿、そんな所で何をしている?」
ふいに上から声がした
鈍が顔を上げれば、そこには女がいた
腰まで伸び日の光を浴びて輝く漆黒の髪を赤い紐で一つに結い、その美貌は村処か国中で噂になる美しさを誇る
しかしその女は鴉天狗ではない
鈍にある黒い翼は、女にはない
「…首が痛い」
「今上げたばかりであろう(汗)」
そう言いながらも女はゆっくりと地に降りる
細くも程よい筋肉の着いた脚が短めの着流しから覗く
「…急用か?」
「ああ。我が主から書状を預かった。そちらの長殿にお目通しを願いたい」
「承った」
微笑む女を鈍はまじまじと見る
「…なにか付いてたか?」
「いや…」
背は村の女衆と比べても高いが、鈍に比べれば幾分も小さい女の頭を撫でる
「…お前、幾つになる?」
「…もうじき十六だ」
「…もう七年か。お前も大きくなるはずだな。紅緋(べにひ)」
女、紅緋は苦笑した
七年前、自分より幼い子供二人を身を呈して守ろうとしていた勇敢な姉
土に汚れ、痩せ細った野良犬のような面影はもう無いが、強い意思を宿す瞳は今も変わらない
「本当に鈍殿には感謝してもしきれない。命の恩人だ」
「気にするな。大した事はしてない」
紅緋は九尾の后に鈍の世話になる事を薦められたが、紅緋は首を縦に振らない
『かの方にすくわれただけではおわらず、せわになるなどできない』
もう迷惑は掛けられないと言った幼子を止める理由はないが、やはり危なかしくほおっておく訳にはいかなかった
蛇の女(だのめ)の一族に引き取られた後も見守り、交遊を続けた
幼い女の子から大人の女となった紅緋は美しくも強く成長した
「…鈍殿?」
「ああ、親方や奥方もお前に会うのをいつかいつかと待ちわびてる」
「そちらも都合があるだろう。手間は取らせぬ。なにより、我が主がすぐ戻れと五月蝿いからな…」
溜め息を吐く紅緋に鈍は微笑し自分達の長の元へと急ぐ
鈍は紅緋を見る度昔に想いを馳せる
彼女はもう覚えてはいない
本当に初めて出会った日の事まで…
烏のような嘴をした顔に黒い羽毛に覆われた体、自在に飛翔することが可能だと される伝説上の生物と言われる者達が暮らす地
その入り口に佇む青年、鈍(にび)は何かを待っていた
名の通り青掛かった薄い灰色の髪に目と同じ漆黒の翼を持つ
普通の鴉天狗と違い翼以外は常に人の形をとっており、痩せ型だが背丈は高く、村で一二を争う武術の達人と謂われている
「鈍殿、そんな所で何をしている?」
ふいに上から声がした
鈍が顔を上げれば、そこには女がいた
腰まで伸び日の光を浴びて輝く漆黒の髪を赤い紐で一つに結い、その美貌は村処か国中で噂になる美しさを誇る
しかしその女は鴉天狗ではない
鈍にある黒い翼は、女にはない
「…首が痛い」
「今上げたばかりであろう(汗)」
そう言いながらも女はゆっくりと地に降りる
細くも程よい筋肉の着いた脚が短めの着流しから覗く
「…急用か?」
「ああ。我が主から書状を預かった。そちらの長殿にお目通しを願いたい」
「承った」
微笑む女を鈍はまじまじと見る
「…なにか付いてたか?」
「いや…」
背は村の女衆と比べても高いが、鈍に比べれば幾分も小さい女の頭を撫でる
「…お前、幾つになる?」
「…もうじき十六だ」
「…もう七年か。お前も大きくなるはずだな。紅緋(べにひ)」
女、紅緋は苦笑した
七年前、自分より幼い子供二人を身を呈して守ろうとしていた勇敢な姉
土に汚れ、痩せ細った野良犬のような面影はもう無いが、強い意思を宿す瞳は今も変わらない
「本当に鈍殿には感謝してもしきれない。命の恩人だ」
「気にするな。大した事はしてない」
紅緋は九尾の后に鈍の世話になる事を薦められたが、紅緋は首を縦に振らない
『かの方にすくわれただけではおわらず、せわになるなどできない』
もう迷惑は掛けられないと言った幼子を止める理由はないが、やはり危なかしくほおっておく訳にはいかなかった
蛇の女(だのめ)の一族に引き取られた後も見守り、交遊を続けた
幼い女の子から大人の女となった紅緋は美しくも強く成長した
「…鈍殿?」
「ああ、親方や奥方もお前に会うのをいつかいつかと待ちわびてる」
「そちらも都合があるだろう。手間は取らせぬ。なにより、我が主がすぐ戻れと五月蝿いからな…」
溜め息を吐く紅緋に鈍は微笑し自分達の長の元へと急ぐ
鈍は紅緋を見る度昔に想いを馳せる
彼女はもう覚えてはいない
本当に初めて出会った日の事まで…